イルゲネス U
□愛情等価
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甘やかされている――という自覚が、フォンにはあった。
ジェイクの側――腕の中はとても心地好い。日向で微睡んでいるような、けれど絶対の安心感がある。
きっと、何匹もの番犬に守られた、絶対に開かない部屋の中にいたって、こんな安心感は得られない。
ジェイクが自分を抱き締めて、大丈夫だ。と囁きながら、頭を撫でてくれればそれだけで、万事全てが上手くいくような気さえする。
フォンにとってジェイクとはそういう相手だ。
けれど、今はほんの少し違う――
微かな呻きに目が覚める。軽く目を擦りながら瞼を押し開き、フォンは音の出所を見やった。
隣のベッド――こちらに背を向けたジェイクが、苦しげに呼吸を乱している。
また、ジェイクは魘されていた。
フォンを喪う悪夢に苛まれ、息をする事さえ辛そうだ。
「ジェイク、ジェイク起きろ」
ベッドを下り、ジェイクを揺する。だが余程深く眠っているのか、ジェイクはうなされるばかりで目を覚まそうとしない。
「ジェイ……」
「……………………ン」
微かにうめき声以外の言葉がもれる。フォンはジェイクを起こす事も忘れて、その言葉に耳を澄ませた。
「フォ……ン。フォン……」
「ジェイク……」
ジェイクが呼ぶのは自分の名前だ。酷くせつなげに、苦しげに、フォンの名を呼ぶ。
「……いかな、でくれ……どこ、にも」
目尻に浮かんだ滴に、フォンは心臓が締め付けられる気がした。それは、ここまでジェイクを追い込んでしまった事に対する罪悪感であり……ほんの少しの幸福感であった。
少なくてもここにひとり、フォン・フォーティンブラスという人間がいなくなる事をこんなにも恐怖する男がいる。
そして、その男はフォンの最愛の相手――こんなにも幸せな事が他にあるだろうか。
「……いく、な…フォン」
「ジェイク……」
フォンはそっと上半身を折ると、頬をつたうジェイクの涙を唇で拭う。
「大丈夫だ、ジェイク……俺はお前の側にいる」
頬から唇へと自身の唇をずらし、フォンはそっとくちづけを贈る。
そうして、フォンはやっとジェイクを起こした。