イルゲネス U

ヒトに焦がる天使の悲鳴
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 ジェイクィズ・バーン。
 イルゲネス国立軍学校三年生。
 高校卒業後、三年間のブランクの後、軍学校に入学。そのため同学年の者達より三つ年上の25才。
 クラスはエンフェルバイン。
 成績は中。だが、火器の扱いについてはトップクラス。
 人当たりがよく、周囲との人間関係も良好。
 西寮・W-9号室。ルームメイトは――





 ガブリエルが知っているジェイクィズの情報など、この程度だ。
 入学してすぐ、フォーティンブラスの仲間――象の牙のメンバーについては一通り調べたが、特にガブリエルの琴線に触れる事も無く、記憶の片隅で埃を被っていた男。
 フォーティンブラスのルームメイトだという点は多少引っ掛かったが、それ以外に取り立ててどうこうという男ではなかった。
 可もなく不可も無し。ニコラス・ローデンのように、頭脳明晰なわけでも、過去につけこむ欠点があるわけでもない。
 ガブリエルにとってジェイクィズとは、本当に普通の……どこにでもいるような男だった。





「はぁ……」
 ガブリエルは後生大事に毎日持ち歩いているペンを取り出して見つめた。
 あの日、困っていた自分に差し出された腕。下心などまるで感じさせない、温かで優しい掌。
 今まで、ガブリエルの周りにはいなかったタイプだ。

 ガブリエルにとって大半の男は、利用出来るか出来ないか。自身の手駒として使えるくらい優秀であるか、そうでないか。その差しかなかった。
 その尺度に照らせば、ジェイクィズはどちらも後者だ。
 周囲の評価が総じて“自由人”である彼は非常に扱いづらく、またジェイクィズという人間全体の総評としては、長所と短所を足して2で割ってプラマイゼロといった所である。
 人当たりがよくはあるが、学内に顔の利く者と親しいわけではない。実家は普通の一般家庭。
 仲間に引き入れる要素など、見事にひとつも無い。



 なのに、ガブリエルはジェイクィズに会いたかった。会って、話をしたかった。
 利用など出来ない……する必要もないくらにい平凡な男。そんな事、頭ではわかっているのに、ガブリエルは彼に会いたいと、近付きたいと思っていた。


 
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