etc

□高くつくはその代償
1ページ/3ページ




「ザ・チルドレン解禁!」
 皆本の掛け声とともに、薫・葵・紫穂の三人は地上数百メートルの空へ飛び出していく。
 ひとりヘリに残された皆本は、三人が飛び込んでいった炎上する高層ビルを見下ろし、呟いた。
「三人とも、頼んだぞ」



 今回のザ・チルドレンに課せられた任務は、高層ビルの火災を鎮火する事である。
 火元が上層部のため、消防車では間に合わないのだ。
 本来なら三人と共に現場へ向かう筈の皆本だったが、火事はこちらの予想より広範囲に広がっており、チルドレンの三人だけでなく消防やレスキューにも指示を出さなくてはならないため、ヘリに残るを余儀なくされたのだ。
 そんな皆本は三人の無線から現場の情報を受け取り、的確に消防・レスキューに指示を出している。
 だが、皆本には何か違和感があった。
「この火災は事故じゃない。人為的なものだ。
 だが、それにしたってこれは……」
 この火の広まり方は尋常ではない。
「まさか、エスパーが絡んでる?」
「御名答」
 聞こえてきたのは少年の声。
 このヘリには皆本と、皆本よりずっと年上のヘリのパイロットしか乗っていない筈。
 なら、この声は──
「兵部っ!」
 振り返ると同時に懐から拳銃を取り出す。
 だが、その照準を合わせる前に、重たい拳銃はピヨピヨとヒヨコの飛び出す玩具に変えられていた。

「君もワンパターンだね。そんなんじゃ、女王達にもそのうち飽きられるよ?」
 皆本から取り上げた銃を人差し指一本でくるくる回しながら、銀髪の少年…兵部は楽しそうに笑う。
「まあ、僕としてはそのほうが好都合だけどね」
 人ひとり殺傷するのに十分な凶器をお手玉のように玩びながら、兵部は皆本を見やる。
「……お前がいるって事は、今回の事件パンドラが絡んでるのか?」
 厳しい視線を向ける皆本とは対称的に、兵部は優雅に肩を竦めて、まさか。と笑った。

「こんなチャチな事件を起こす必要がどこにある?
 エスパーはエスパーでも、パンドラには関係無い奴の仕業さ」
「……」
 皆本は兵部を睨み付けながらも、一応はその言い分を信じた。わざわざこんな嘘をつくような奴ではないと知っているからだ。
「だったら、何故僕の前に現れた」
「坊やな君に、忠告を与えようと思ってね」
 兵部はそう言うと、茶目っ気たっぷりにウインクしてみせた。
 が、すぐにその表情は冷たいものに変わる。
「大切なものから目を離すのは愚か者のする事だよ、皆本くん」
 兵部がそう言うのと同時に、ヘリが大きく傾いた。
「何だ、急にっ!?」
「窓の外を見てごらん」
 超能力で平衡感覚を保つ兵部はともかく、ノーマルの皆本は傾いた機内を這いながらも、何とか窓にへばりつく。
 そこから見えたのは、爆発炎上するビルであった。

「なっ!?」
「どうやら放火魔が女王達を道連れにする事を選んだようだね」
 兵部の言葉が本当である事を示すように、ビルのあちこちから火柱が上がり出す。
「なかなか高レベルのエスパーだったようだね。だけど、僕の女王達に害為すような輩は許せないな」
 火柱を見つめる兵部の瞳に、暗い光が宿る。

「さて。じゃあ僕は女王達の元に行くとしようか」
「なっ、待て!」
 ヘリの扉を開け、熱気流渦巻く空へ身を投げ出す兵部を捕えようと、皆本は腕を伸ばす。
 が、タイミングが悪かった。

「うわぁっ!?」
 近距離で上がった火柱を回避しようと、ヘリが大きく傾く。
 そして、皆本の体はヘリコプターの外へと投げ出された。
 身を焼くような熱と急激にかかるGに、皆本の意識は暗転した。


 
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ