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□理不尽なるはこの関係
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眩い光りを放つシャンデリア。着飾った人々。三ツ星シェフのフルコースと一等品のワイン。
たとえ世間様から後ろ指指される世界に生きていようと、金持ちは金持ち。金は金である。
イタリアマフィア界の頂点に君臨するボンゴレファミリー主催の夜会。さすが無駄に豪奢だ。
「よお、そんな所につったってないで中で飲まないか?」
ふと視線をやれば、仮にも一ファミリーのボスである金髪の古馴染みがグラスをふたつ携えてやってくる所だった。今夜の客の中でも上客に入る男がホストの真似事をするなよと言いたかったが、言っても無駄な事は百も承知なので有り難くワインで満たされたグラスを奪い取った。
「機嫌悪ぃなぁ。またザンザスにボコられたのか?」
「テメェの知った事かぁ」
ぐいと一気に飲み干し、殴られて腫れた頬を隠すようにそっぽを向く。折角誰にも見つからないよう薄暗いテラスにいたというのに。
「ははは、図星みたいだな」
「うるせぇっ!」
グラスを割らんばかりの勢いで手摺に叩き付け、スクアーロは室内の中央付近、憎たらしい暴力上司とその上司の肩付近までしか無い十近く年下のボスを見やる。
和やかとは到底言い難いが、それでもさほど険悪ではなく会話をしている上司ふたり。あの男がおとなしく他人の話に耳を傾ける姿など、10年前は想像すら出来なかったというのに。
「ザンザスも丸くなったよな」
「ツナヨシだけにはなぁ……」
こちとら未だに理不尽な暴力に曝されているというのに、何なのだこの扱いの差は。
まだ口をつけてなかったディーノのグラスを奪い、再び一気に呷る。自棄酒気味なのは承知しているが、腹立たしいものは腹立たしい。
「おっ! ディーノさん、スクアーロ!」
次なる珍入者は十年一時も変わらぬ笑顔を浮かべた男であった。
「よ、山本」
「守護者がこんなとこで油売ってんじゃねぇよ」
正反対な台詞にも一切ためらいを見せず、山本は軽い足取りでふたりの前に立った。
十年で僅かに抜かされた身長が面白くないのか、スクアーロは手摺に腰掛けて目線を少しだけ上げる。
「で。ツナヨシの警護はいいのか?」
「警護つってもさ…」
振り向いた先にはやはり先程と変わらぬふたりのボス。その姿は一組織のドンと部下というより、年の離れた親戚のそれである。
「ザンザスがいんなら、俺ら必要ねえんじゃね?」
「ある意味アイツが一番の危険物かもしれないけどな」
山本が差し出したグラスを受け取り、ディーノは冗談混じりに笑う。そんな台詞が冗談で済まされるようになったのだから、時の流れとは恐ろしいものである。
「んで、スクアーロは何で拗ねてんだ?」
「あ゙ぁ゙っ!?」
額に青筋を走らせるスクアーロと、ぷっと吹き出すディーノ。金と銀の髪がそれぞれ揺れる。
「誰が拗ねてるだ、誰がぁっ!?」
「あり、違ったか?」
首を傾げる山本の耳に顔を寄せ、ディーノはぼそぼそと虚偽混じりの説明をする。
「ふーん。ザンザスがツナばっかに優しいのが嫌なのな」
「テメッ、跳ね馬っ、どんな説明しやがったんだぁっ!!??」
今にも剣を取り出し、山本の口を塞いで――物理的にも、比喩としても――しまいそうなスクアーロを「どーどー」と抑え、ディーノは苦笑する。若干ながら山本との付き合いがスクアーロよりも長いディーノは、この年下の男の少々とぼけた物言いにも慣れているが、沸点の低いスクアーロはそうもいかないようだ。
「ザンザスってあれだよな」
スクアーロの怒りなどどこ吹く風。山本はうーんと唸りながら、何やら必死に言葉を探している様子。
「あ、あれだ。
亭主関白」
盛大に響く笑い声。
そしてぶちキレた剣士の怒声と抜刀音。
パーティ会場が半壊し、亭主関白な上司に半殺しにされたスクアーロが山本に文句をつけにきたのは、一週間後の事であった。
2008.4.23
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