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□貴方に大輪の花束を
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呆れた。呆れて物も言えなかった。
テュールは今開けたばかりの扉を閉めて、何も見なかった事にしたくなった。だが、元来責任感が強く現実主義な彼は、それをなかった事には出来なかった。
自室一杯に漂う薔薇の芳香。隙間無く床を机をベッドを、隠さんばかりに敷き詰められた紅の薔薇。そしてその中で悠々と笑む金髪の男。
テュールの実力を持ってすれば、その男の首を刎ねる事はさして難しくはないだろう。
だがそれはこの百や千を超えるであろう紅薔薇を片付けるより、そいつの死体ひとつを片付ける方が面倒だという思いによって、未然に防がれてしまった。
何をしているのだ。と問う必要もない。
テュールは今日が何の日か知っていたし、男の考えも手に取るようにわかった。
だからテュールは花が潰れるのも構わず男に歩み寄ると、サイドテーブルに置いてあった薔薇を数本手に取る。
薔薇にはまだ棘が残っていてテュールの指や掌を傷付けたが気にはならなかった。
そして一本しかない腕を振り上げ、紅の薔薇で男の横っ面を思い切りはたいた。
男は悲鳴も怒声もあげず、それどころか唇の端を上げて言い放った。
テュールが老いる事を祝す言葉を――
2008.3.7
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