ギャングキング夢小説

□【一つ残らず】
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「おはよう、ピンコ」

翌朝、私はいつも以上に気合いを入れてピンコの家の前にいた。


服装はバッチリ、清楚で可愛め。
化粧もナチュラルにして、髪はアップにして。

仕事はしっかり休んだし、うんうん、大丈夫!

本当はネイルとかもしたいけど、それじゃいつもの私とはかけ離れてしまって、逆にピンコを引かせてしまいそうなので、あえて止めた。
だけど今日の私は昨日までとは違うのだ。



さぁ どんな顔をするかな?


「…。おう」


……チーン。
やっぱりね。

無表情+無愛想は今日も絶好調に変わってない。
それでも私はめげずに、大切なプレゼントを鞄に忍ばせてピンコの家に上がりこんだ。


今日はピンコの誕生日なんだから、誰からの誘いも、ジャスティスとしての活動も全て禁止にした。
だって、誕生日くらいは一緒に居たいじゃない?

しかも今日は前から企んでた、ギュッ!チュッ!イヤーン!作戦の決行日だ。
下着までも手を抜いてない。

最後までとはいかなくとも…せめてキスくらいは…。ね


「ピンコ、ケーキ作ったんだけど、食べる?」

「甘いものは好きじゃない」

「…っだ、だよね〜」


はい。


「じゃあさ、今日は何処行く?折角だし、どっか食べに行く?」

「外に出たらジャスティス絡みに巻き込まれるかもしれない」

「…っだ、だよね〜」


はい。


「じゃあさじゃあさ、ビデオ借りてくるし、一緒に見る?“ポチとユキの物語”っていう―…」

「前、見た」

「…っだ、だよね〜(見たんだ…」



はーい。












もう会話のネタがない。









「じゃあ…何する?」

「テレビでも見るか」


口を尖らせるのは、拗ねた時の私の癖。
それを無視してピンコはテレビの電源をつける。




ねぇ、ピンコ。

今日はアンタの誕生日だよ。
一緒に映画観に行って、外で美味しいご飯食べて、家で作ったケーキ食べて、プレゼント渡して、ギュッ!チュッ!イヤーン!な作戦だったのに。


全部、駄目なんだ。
全部、出来ないんだ。




馬鹿



「名無しさん、お前が好きな芸人が出てるぞ」

「…あ、ホントだ」


私が『笑いご飯』を好きなのを、ちゃんと覚えてるんだね。
だけど私はピンコの好きなもの、何も知らない。


「『笑いご飯』面白〜い…」

精一杯の笑顔で笑った。
無理して笑った。

決して素直に笑える心境じゃないけど
私は笑った。

私の我侭でこの一時を壊したくない一心で。




「名無しさん…」

ピンコの部屋には沈黙が続いて
テレビから流れる笑い声しか
聞こえていなかった

その時間を遮ったピンコの声
同時に私の髪に触れるピンコの手

「…何?」

普段、私になんて触れてこない癖に
どうして今 そんな声で私の名前を呼んだのか

無意識に心臓が高鳴るのが分かった



「今日のお前はいつもと違うな」

チラリとピンコを見た私の目が
ほんのりと微笑む貴方の顔を捉えて

目が離せずにいた


ドキン ドキン


煩いや

「そ、そうかな…」

「今日の為にお洒落したんだろ?髪も顔も服も」

「…うん」




ゆっくりと私の髪の間を流れるピンコの指は、肌に触れても居ないのに酷く熱い





「似合ってる」





か細い声は 私には響くように聞こえた


「ピン コ…」


反則だよ そんなの


「今日はお前との時間しか作ってない。他の奴と話すつもりはないし、お前のコトしか見るつもりもない。だから部屋で居たい」

「うン…」

「今日は…独り占めしていいか?」

「そんなの〜ッ…」

始めから私はアンタだけのモノなのに…


泣いてしまって言えなかった



でもピンコは

「名無しさん…」

私の名前を呼んで


初めて抱きしめた


「ピンコ、心臓 五月蝿い…」

「お前もだ…」


抱きしめられて初めて気付いたこと

ピンコの胸がすごく大きい音で動いていた

でも、それは私も同じで とても落ち着く


「ピンコって暖かい…」


涙も止んで 今はピンコの暖かさだけを噛み締めるんだ


「名無しさん…」


今日は、これで充分かもしれない。

今は私だけを愛してくれてることが

言葉じゃなく、温もりでしっかり分かった。

それだけで充分だよ。


「ン…?何?」




「…いただきます」

「えッ!?…ッ!」


何の予兆もなく塞がれた私の唇は
初めてピンコの唇の温かさを知り

抱きしめられている私の体は
初めてピンコの体温を知り

驚きに見開かれた私の目は


初めて

あんたの傷

あんたの髪

あんたの服

あんたの目


それらが

どれだけ輝いているかを知った


全てが愛しい






その後の私は

ピンコの体の逞しさや
ベッドの固さ
ピンコの様々な表情


この一日で
全てを知った




END
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