ギャングキング夢小説

□【一つ残らず】
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「お待たせッ」
「わざわざごめんね〜」
「いいよいいよ、それに名無しさんちゃんとデートだし」
「あはは!」


息を切らして現れたハスキーに、さっき自販機で手に入れた缶珈琲を手渡す。
何も言わず、可愛らしい笑顔で受け取ったハスキーに今日の旨を伝えた。

「明日ピンコの誕生日でしょ?何買うか、分かんないから手伝って欲しくて」

「あ-…ピンコさんの趣味はあんまりわかんねェからなぁ…」

「ハスキーの趣味で良いよ」

「あ、俺?俺は名無しさんちゃん」

「ほんッと馬鹿だね〜」


ハスキーと笑い合う時間も楽しいけど、今はピンコへのプレゼントが先だ。

私はもうボタ高のものではないハスキーの制服の袖を引っ張って、歩き出した。


「予算は大体この位。んで柄は〜…」


私の財布と相談した結果と、私が考えたピンコに似合う物。
それらを紙に書き出してハスキーへと手渡した。
まじまじと食い入るように見つめた後、ハスキーはニンマリと微笑んで先々と歩き出す。



「ピンコさんのチョーカーに張り合えるかは分かんねぇけど、良い場所知ってんよ」


私の歩くスピードに合わせて、少し前を歩くハスキーの後姿にほんのちょっとだけ、ピンコの面影と重ねてみたり


待っててね 愛しい人



「俺がいつも行ってる雑貨屋なんだけどサ、結構いい物揃ってるよ!」

「へぇ〜、穴場だ?」

「そうそう」


着いた先には煙草とお香の匂いが満ち溢れる店。
中に入ると暗い店内のカウンターから、イカつめのお兄さんが此方を見つめていた。

「お、ハスキー。女連れてきたンか」

「チャーッス。違うっスよ。この子はピンコさんの女ッス」

「でッ!?ホンマかッ!?こんな可愛い子がアレの女けッ!?」


驚く店員さんを放って、私は店内に飾られる様々な品物を一つ一つ見つめていく。

アレも違う、コレも違う…と。

アクセサリーが良いのか、インテリアが良いのか、それとも服か。
そのどれもがピンコと重ならなくて、私は散々迷った。

ウンウンと唸る私の隣にハスキーがヒョッコリと顔を出して、
何か良いものあった?と笑顔で聞くんだ。

それがまた、私を焦らせる。

「ううん…ピンと来るのがナイの」

「名無しさんちゃんは、どんなのがいいの?」

「分かんない…」

理想のモノが思い浮かびもしなくって、悔しくなった。




ピンコの首に巻きついているあのチョーカーに
私は一生適わない気がしてた。

ピンコがアレをつけているのを初めて見た日から、ずっと。


そして 何度も泣いた



こうして 同じように泣いたんだ



「ぅッ…分かんない…」

下唇をこうして噛み締めたのは何度目だろう

そしてまたハスキーはいつものように私の頭を撫でた。



ピンコと付き合う前からずっと不安に思ってた。
付き合ってからも、その不安は消えたことはない。

いつかどこかへ 行ってしまうんじゃないかって。

自分のモノである証拠は 何もないんだもん





「名無しさんちゃん…」


ハスキーの声はいつも以上に低くて重かった。
でもそこには暖かさがあって、それはピンコと私に対する愛情で


「名無しさんちゃんは、そのままでいいんだよ」

「…ハスキィ…」


ポロポロと涙が零れる瞳をハスキーに向けると ホラ


やっぱり笑ってた


「名無しさんちゃんからのプレゼントなんだから、何でもピンコさんに似合うよ、きっと」


その一言に頷いて そっと手に取ったモノを お兄さんにお金と一緒に手渡した


「嬢ちゃん、コレでいいかい?」

「はい…」

イカツいお兄さんの太い指からは信じられない程可愛らしく包装されていくプレゼント

ようやく引っ込んだ涙の残りを袖で拭って、包装され終えたソレを大事に抱えて店を出た。


「ありがとう」

まだ不安気が残る精一杯の笑顔を残して。



「ねぇハスキー…ピンコ喜ぶかなぁ?」

「そりゃ、喜ぶよッ!」

「うン…」


明日が幸せな一日であれと願って

日は暮れる





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