ギャングキング夢小説

□【Genuine Article】 -本物-
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「も〜ハスキー。アタシの話聞いてる?」
「え?あぁごめんごめん。でも俺はいつもお前のことしか考えてないからダイジョーブ!」

俺の隣に歩く女が君ならどれだけ嬉しいか。

名無しさんちゃんに気持ちを伝えられないもどかしさから、俺は馬鹿な道ばっかりを進む。

好きでもない女に好きだと言って
好きでもない女に愛のないキスをして
好きでもない女と形だけのSEXをして

その全てを君に重ねる俺は なんとも情けない男だな…。ボタ高No.3の名が泣くな。


「お前の為ならなんだってする。俺だけを見ていてくれ」と何度言いそうになったことだろう。
そんな想いは無情にも積み重なるばかりで、溜めに溜めた物を吐き出すのはいつも君じゃなく他の女にぶつけてしまう。

愛してるんだ
好きで好きで堪らないんだよ




なぁ  名無しさん…






「お邪魔しま〜す」

また今日も、いつもと同じ調子で照れたように顔を出す。

可愛らしいな…とは口が裂けたって言えないが。

俺は名無しさんちゃんがここへ来たと同時にピンコさんから少し離れた椅子に腰掛け携帯を取り出す。

また今日も…話せないのか、と。

しかしいつもと違ったのは ピンコさんが名無しさんちゃんの姿を捉えた瞬間に椅子から立ち上がったことだ。

「あぁ、名無しさん。 俺は今から少し用事があるから、マッチョとハスキーと時間つぶしてろ」
「え…あ、うん…」

「おいハスキー。名無しさんの話し相手になってやれ」
「え、あ…うぃーっす…」

呆気に取られたようにピンコさんを見つめる俺は、もはやどうしたらいいのかと固まってしまった。
携帯も携帯の役目を果たさぬほど無様に俺の手からぶら下がり、俺はというと只出て行くピンコさんの後ろ姿を見つめるしかなかった。




「…ハスキー、くん?」
「え!?」

行き成りに名前を呼ばれ思わず声が裏返った。
好きな相手と仲良くなれる絶好のチャンスだとはいえ、あまりに素っ頓狂な声を出してしまったことに俺は一瞬で赤面してしまう。
その様子を見ていたマッチョくんは肩を震わせて笑うので一瞬ムッとしたが、まぁ一応No.2だしな。
放っといてやるぜ。

「同い年…だよね?」
「そうだよ」

何とか平静を装うもやはり心臓はさっきから煩い。
痛いほどに耳につく。
そろそろハッパも切れる頃かもしれないが…

名無しさんちゃんの前では流石にキメられねーしな。

「俺もちょっとトイレ行ってくんわ」
「え!?ちょっ、マッチョくんッ」

いや流石にそれはヤベェだろ。
二人っきりになっちまうじゃねぇか…!!

何話せばいいんだよ。

聞きたいことは山ほどあるし言いたいこともクソほどあるけど、俺が口にした言葉の所為で彼女を傷つけちまったらどうする?
嫌われちまったらどうする?

俺が彼女を好きだっつーことを知らないとはいえ、二人きりはナイだろテメェー!

…と言いたいところだけど我慢だ。 
俺が乗り切ればいいんだからな。


ニヤニヤとしながら部屋を出るマッチョくんに、俺は気付くことは出来ないでいた。

なんにせよまずは俺は怖くないよ〜ッてことを分からせないと、話も進まないワケで

「名無しさん…ちゃんだっけ?」
「うん、名前覚えてくれたんだ」
「そりゃ、いつもピンコさんが言ってるからね〜」

ヘラヘラと笑う表情は、いつもに増してぎこちないだろう。
何だって俺はこんなに緊張しているんだろう。
こんな静かな部屋で、しかも二人きりになっちまって、心臓の音が聞こえちまった時にゃ俺はどうしたらいいんだ…?

「お兄ちゃんもいつもハスキーくんの話してるの。家でちらっと会話するときも、ハスキーがハスキーがって…よっぽど好きなんだと思う」

名無しさんちゃんの照れたような笑顔を何かに喩えるとすれば、それは風鈴。
リンリンと小さいながらも美しく響き、どんな輩でもその音色には耳を奪われるもんだろう。心が洗われて何処か懐かしく、そして愛おしい…。

君はそんな人

「ピンコさんは俺が惚れた男だからね…」
「お兄ちゃん強いもんね。でもちょっと控えて欲しいかな」

名無しさんちゃんの楽しそうな笑顔を何かに喩えるとすれば、それは風。
ふわふわとしていて、見ているこっちも優しい気持ちになれるもんだ。そして、暖かく妙にワクワクさせる。

君はそんな人



次第に俺の緊張も薄れ、互いに大笑いが出来るようにまで打ち解ける。
始めのような、「嫌われてしまわないか」というマイナス思考は一体どこへ行ったのだろうか。
今はもっと仲良くなりたいし、もっと君のことを知りたい…と変に焦る気持ちが大きくて、逆に俺の全てを知って欲しい気持ちもあって素でぶつかっていく。

もっと笑っていて欲しい。
もっと楽しんでいて欲しい。
もっと声を聞かせて欲しい。

俺はいつの間にか 君に依存していたようだった

「あ〜…笑いすぎてお腹痛いや」
「俺も。名無しさんちゃん面白すぎだよ」

二人は涙を流すほど笑った。
余韻の残るため息を零すと、互いに目が合った…。

名無しさんの顔は笑いすぎたためか、ほんのり赤くて火照っている。
少し涙の溜まった大きな瞳は潤っていて 酷く愛しく思ってしまった

「……ッ」

俺はどうしようもない程に感情が高ぶるのが分かった。 

痛いほどに締め付けられるこの胸は押さえようにも治まらなくて思わず空気を飲み込んでしまう…

愛しい 

愛しい 

今すぐに抱き締めたい

今すぐに俺のものにしたい


今まで溜め込んできた欲求や愛情の全てが噴出そうとしていた。
理性を保つことに必死で、俺の様子を見て「どうしたの?」と小首を傾げる彼女に、何も言える状況ではない。

俺は何とか彼女に苦笑いだけを残して、なんでもないよと伝えたかった。

だけど君は優しいな…。

俺の肩に手を添えて、本当に心配そうに聞いてくる…。

「…ッ。 名無しさんッ…」

俺は咄嗟に握りこぶしを作って自分を抑える。
大きく深呼吸をすると共に俺の肩に添えられた彼女の手をゆっくりと押し返し、代わりに彼女の両肩を掴んで項垂れた。

次に出たため息はやっとのことで理性を保ち続けられたことに対する安心感。

そして一つの 決意だった



「名無しさんちゃんッ……










好きだ…………」



「……え?」





暫くの間続いた静寂は耳に突き刺さる程に痛かった。


嫌だと言われてもいい

ごめんと言われてもいい

どうか一言でいいから…

何か 言ってくれ…
















「…あッ、あたしも…」

「…は?」




なんと言えばいいだろうか

気が抜けたわけでもない 
嬉しかったわけでもない
悲しくなったわけでもない

ただ彼女が何を言っているのか理解出来ずにいた






「アタシ…も、だよ。ハスキーくん、が好き…」

ゆっくりと顔を上げると、湯気が出るのではないかと思う程、茹でられたタコのように真っ赤になった君がいた。

「…名無しさんちゃんが?」
「アタシ、いっ、つも…見てたから…ッ。ハス、キーくんのこと、いつも、見てたから…」

一言一言を慎重に選んでいるのか、所々が途切れ途切れに紡がれた言葉。
俺は只、目を丸くして聞いているしかなかった

「ハスキーくんは…私のこと全然興味なぃんだと…。いつも私がここに来たらハスキーくんは携帯弄ってるし…だから、いつも話すきっかけ、探して…ッ」

一筋の涙が 彼女の瞳から流れ出る。




聞けば彼女も、入学当初から俺のことを想っていたそうで

あのすれ違った日に互いに恋に落ちていた。


ピンコさんに会いに来て、俺を見つけた時にゃ酷く緊張したらしい。


君の行動の一つ一つ。
君の言葉の一つ一つ。
君の表情の一つ一つ。

全てが目に入り

昨日も話せなかった
今日も話せなかった
多分明日も話せない

いつになれば話せるのかと想いを馳せる


君は、同じことを考えていたんだ。

感極まって流れた涙はそれを合図のように次から次へと押し寄せる。
小さく息を洩らして我慢しようとする君が本当に本当に愛しい

ギュッと小さく抱き締めて
震える手で頭を撫でてやった



「…俺も 同じこと思ってたよ」
「本、当…?」
「本当」

涙はずっと止まらないまま
ゆっくりと顔を上げる君に







俺は触れるだけの キスをした














それは今までのような愛のないキスじゃなくて




正真正銘の “本物”のキス















そして君に 全てをぶつける




今まで暖めてきた 君への気持ち












「愛してる」











END




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