愛と殺意は紙一重
□す
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一度小さく頬を叩き、気合いを入れ直したあたしは意を決して薄暗い第三視聴覚室に歩を進めた。
きみへのあいで
むねをこがす
カーテンは開いておらず電気すら点いていない薄暗い教室、何処かジメジメした埃っぽい空気、乱雑に寄せてあるだけの机や椅子。
なるほど、そういうことをするにはピッタリな場所だ。
そして、その机の一つに優雅に脚を組んで座っている男。
「久しぶりだね、まりあ。」
そう言って男───
幸村は、あたしにニコリと笑い掛けた。
「ん、久しぶり。」
「どうしたんだい?こんな所で。」
「まあ、いろいろあってさ。」
「いろいろ、ね。」
笑みを崩さず柔らかく話しを続ける幸村は、あんなことが起きる前の幸村のイメージそのものだ。
そう、女の子であれば誰もが一度は憧れる御伽噺の素敵な王子様。
まさに幸村は皆の王子様だ。
「ねえ、幸村。」
「なんだい?」
「なんかさ、変わったね幸村。ちょっと会わない間に。」
「そうかい?目が、覚めただけじゃないかな。」
そう言って節目がちに笑う幸村にあたしは何とも言い難い気持ちになった。
今の幸村は、何だが苦しそうで見てられない。
...まあ、幸村をこうにしてしまったのは間違い無くあたしなんだけど。
物証みたいな物はないが、あたしが幸村の気持ちに答えなかったから幸村がこうなってしまったということは馬鹿なあたしでも安易に想像が出来た。
完璧過ぎる幸村の微笑みが、今は痛々しく感じた。