ノベル
□マンジンゲーロ
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「実は僕は催眠術が使えるんだよ、日野」
「……帰れ」
ある夏の日の放課後。鳴神学園の新聞部室で、少ない人数であくせくと働いている新聞部員を横目に男三人が話をしていた。
「ちょっと、なんだいその態度は?せっかく僕が次の校内新聞にピッタリのネタを持って来てやったってのに」
「見て分かれ風間。今ウチの部活はお前に構ってられるほど暇じゃないんだよ…まさか新堂も同じ用件なのか?」
日野は疲れたようにもう一人の男を見た。
「俺は風間に呼ばれただけだ」
「…仕方が無いな。今から新堂で催眠術を実演してあげるから。それで信用する気になるだろう?」
「あ?てめぇ俺を実験台にする気だったのかよ」
「実験も何も、もうすでに成功した事があるからね。別に危険な事するわけじゃ無いんだからいいじゃないの」
そう言って風間はたこ糸を取り出した。
「さぁ日野。50円玉を出したまえ」
「………」
「この催眠術は相手の目の前でお金で作った振り子を振るやり方なんだ。本当は500円玉のが効くんだけど、吊るしにくいから50円玉で良いよ」
「………」
「ちょっと日野?」
「………」
「…え〜と……新堂」
「今50円玉なんて持ってねぇよ」
「……なんだい皆して。まったく使えないな。お〜い坂上君」
風間は机で作業に勤しんでいる一年生に声を掛けた。
「………」
坂上と呼ばれた男子生徒は聞こえないフリをしている。
「ねえ坂上君ってば!」
無視。
「…あ、そう。君、この僕を無視しようってわけ?まぁ良いけどね。今夜、自家用船で君の家に行ってたっぷりと僕のありがたい話を…」
坂上はガタッと音を起てて立ち上がり、自分の財布から取り出した50円玉を風間に押し付けて席に戻った。
「なんだ、あるならとっとと出せば良いのにさ。じゃぁいくよ。リラックスしたまえ新堂」
風間は50円玉にたこ糸を結び付けた。
新堂はなんだかんだと風間に向き直る。