暗い夢

磁石式関係
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人は自分にはないものを欲しがって憧れるってよく聞くけど、本当にその通りだと思うんだ。

まず大きな事で考えると、私は女だから異性である男に憧れを抱いたりもするわけで。
女よりも段違いに滅茶苦茶な男の力で何かを殴りつける時の快感は、女の弱々しい力で殴りつける時の快感の何倍も気持ちいいと思うのよ。
あんな力を最大限に使って人を殴ったら、きっと大人だって殺せる事でしょうね。
私のちっぽけな力では、精々小学生までが限界だわ。
ああ、なんてつまらない。


そして今、私は最大級に憧れている物がある。あ、違う、物じゃない間違えた。ヒト。
その“ヒト”を代名詞とした人物の名前は、同じクラスで今現在私の隣の席で静かに真面目に授業を受けている幸村精市くん。
彼の穏やかな雰囲気、とっても素敵。
残念な事に私にはそんな雰囲気は備わっていないから、やっぱり先程の定理に基づいているわけで。
どうしたら彼のようになれるのかしら、授業なんかそっちのけで私は一生懸命考えた。
考えて考えて、これでもかと考えて、やっと閃いた時には授業はとっくに終わっていた。
周りはまるでガヤガヤしていて、辺りからは食欲をそそるいい香りが漂っている。
ああ、いつの間にやらお昼の時間になっていたみたい。
周りの状況も見えないくらい考えに没頭していた私は、一人周りに乗り遅れて机には未だ教科書が散乱していた。
ああ、私ったらおちゃめさん。

私はその閃いた考えというものを実行すべく教科書をそのままに勢いよくイスから立ち上がり、先程まで隣に座っていたハズの幸村くんを探すために教室を飛び出した。
ああ、私の欲が早く早くと脳にいっぱい指令を出している。


ドタバタと忙しなく廊下を駆け回る私を見る周りの生徒は皆驚いたように目を丸くしている。
何、何よ。
私の顔に何かご用でも?
私は急いでるんだからアンタたちに構っている時間はないの、そこをおどき!

生徒たちが私を避けるようにして道を作ってくれたおかげで私は悠々と幸村くんを捜すことができる。
この学校の奴ら、少しは気が利くようね。

 
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