暗い夢2
□ロボットの虚言
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ぱらぱらと舞い降る雪の夜、俺と彼女は凍えるような外に居た。
「私、ロボットかもしれない」
そう言った彼女の瞳は、真っ直ぐと俺を見ていた。
「何を言っとんねん」
小さく吹き出して俺は笑った。
しかし彼女は笑わない。
「私、ロボットなんだよ」
俺は笑うのを止めた。真剣にそう言った彼女を笑うのは失礼だからや。
「なんでやねん」
「私は話すのが苦手だし表情が堅い。親には考えが読めないって言われるし、…友達もいないし」
そんならドラえもんはどうなんねん。友達いっぱいおるやろ。友達がおらへんからってロボットとは限らへんわ。
そう言って彼女の頭を撫でた。
ニコりともしない。
きっと笑い方を忘れてしまったんやと思う。
彼女は、精神を病んでいたから。
「私、きっと人間じゃないんだね」
それは彼女の妄想癖であり、彼女自身がロボットだなんてそんなことは誰が証言したわけでもない。
「お前がロボットやったら俺はお前に惚れたりせぇへんわ」
「どうして?」
「動物ってな、機械に餌付けされようとも、金の溢れた無機質な部屋にいようとも、やっぱり温もりのそばに居たいって思うらしいで」
なんとかって学者の本に書いてあった気がするわ。
「ほら、こんなに温かくて柔らかいお前がロボットなわけあらへんやん」
ぎゅっと目の前の彼女を抱き締めた。体温が伝わった。
「つーかロボットが寒さで震えるわけないやん」
「じゃあ人間?」
「人間」
「人間…」
「あほ、信じろ」
抱き締めて、抱き締めて、冷たい雪さえも溶かしてしまう君の体温を感じた。
「…私は、人間」
ロボットには絶対にできへん、とびきりの笑顔で彼女は笑った。
ロボットの虚言
(“自分にだって心がある”と認められたかった女の子の話)