拍手小説庫

□2011
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「明けましておめでとー」


元日の朝っぱらから
人様の家の呼び鈴を鳴らして表れたのは
それはまぁ、晴れ晴れとした顔をした我が忌々しい恋人である。


「てめぇ、元日早々、他人の家にくるたぁ、どういう神経してやがる…」


「あっれ?聞いてなかった?」



おっかしいなぁー、と目をそらしながらに頭を掻いたと思うと
そのまま上目使いと口角を上げてこちらを見た。



「お母様公認ってやつ?」


「はぁ!?」



訳が分からず、怪訝な顔をしていると
後ろから、母親の声がした。


「あ、武君!来たのねー、丁度よかった。
 薫の身支度も万全だから、一緒に元朝参りにいってらっしゃい!」


そういって、肩にファーのあるジャンバーをかけられて合点がいった。


「母さん、俺、聞いてねぇよ」

「あら、言ってなかったかしら?」



天然な母親だが、ここまで来ると白々しい。
きっと、この間のクリスマスイブの日に桃城とこの計画を企てたに違いなかった。


其々の計画の意図は違っていても、
俺にとっても、一日の計画があるというものだ。


今日は、初トレーニングをする予定だったのに…


俺が、まったく行く気配を見せないのに痺れを利かした桃城は、
俺の腕を強く引っ張って、促した。


「ほら、行こうぜ!帰ってきたらお雑煮も用意してくれるって!」

「ふ、ざけんな!俺は今聞いたばっかなんだぞ」


玄関先で、ぎゃーぎゃーと言い合いを始めれると、奥から心配そうに弟がやってきて、母親の顔を覗き込むと、
困ったように母親は一言漏らした。



「薫、あのとき行けばよかった、とか、後悔する前に、想い出は作って置くものよ?
 



俺は桃城の胸ぐらを掴んでいた手を止め、少し俯く。
そんないつかなんて、
想像したことがなかった。



こいつとは、このままずっと一緒でいられると思って、
こんな風に、こいつの誘いを断って
いつだって、いけると思って。


そこで、何処にそんな自信があったのか、と自分を疑いたくなった。



俺は、急に目頭が熱くなって、「やばい」とさらに俯く。
こんな、元日から、こんな…。

信じちゃいけないのか、

こいつと一緒にいられる、一生を、




自惚れてる…わけじゃないのに…!






「あ、おばさん、やっぱ薫にも準備がいると思うんすよね。
 お昼から行こうと思うんで、それまでお邪魔していいっすか?」


「うふふ、いいわよ」


「おじゃましまーす!」



顔を上げる前に、桃城に肩を思いっきり掴まれて
床を見ながら廊下を進んでいく

この前で、俺の部屋への道筋は勝手がわかっているようで
迷うことなく部屋の前に着いてしまった。



「おっじゃまぁー」


部屋に足を踏み入れると、「がちゃ」という音がして振り向く、
しかし、また肩をがっちりと掴まれ
少し進んだところにある
ダブルサイズの布団に投げられた。


「ってえっ、この、馬鹿っぢからっ!」


「あーはいはい、」



ジャンバーを着たまま、桃城は俺に覆いかぶさってきて、
生地が擦れる音が俺の耳に触れた。


「さ、姫はじめしよっか」


「だ、誰がするかぁ…っ」



桃城の胸板を押し返そうと、腕をつっぱねると
上から、慈愛に満ちた桃城の顔が見えた。


恥ずかしさで
真正面から桃城の顔が見れずに横を向くと
自分の着ていたファーが顔に触れ。

急に先ほど我慢した涙があふれた。





「…涙もろい、」


恥ずかしい。





頬に桃城の手のひらが触れて、
反対の頬に、柔らかいものを感じた。





ああ、温かいな。


好きだ、
こいつの掌。



キスも、好きだ、


押し返していた腕の力を緩めて
ちらりと横目で、桃城を見ると、




何とも言えない顔で
頬をうっすらと染めて言った。




「俺、いつだっていい、来年だって再来年だって
 ずっと、この先、行く機会なんて、何度でもあんだ」



だから、
そういって、一度体を起こしたと思うと、
いつも通りの、曲者の顔に戻って




「じゃ、姫はじめしよっか!」


「の、馬鹿っ!」





一重に僕らは、つながっているのです。







2011 1月1日


あけましておめでとうございます!
今年も、こんなんですが
桃海の愛は深いです。
よろしくお願いします!!!
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