桃海小説(短)2

□本当はうれしいけど
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本当はうれしいけど



夏は好きな季節で、俺は小さい頃からその緑色が好きだった。
何もかもが、活発だ。


「海堂、プール行くぞ!!」

海堂がプールに行く事となった原因は、夏が似合う男、桃城である。
いい加減、今日は部活が無かった。夏休み中という事もあり
海堂には絶好のトレーニング日和であったが。。
それを、この男に邪魔されたのである。

海堂も断ればいいものでもあるが、それも出来ないのには理由があり
それは、弱み という物であった。



先日。桃城の家に行く途中のことだった。
電柱に居たのはナンとも可愛らしい猫で、ソレもとても人懐こかった
海堂にとっては、このうえない至福の瞬間だろう。

こんなん我慢してたら、生きてる楽しみってなんだ

海堂はその可愛らしい猫を抱えあげて、思わずキスをした。



ぱ しゃ。

「海堂の弱みゲットー。」



海堂はぎょっとした、振り向けば、今から行くはずであった家の主であり
自分の恋人である。

「な、も、桃城!!!貴様!なにやって…!」
「海堂が遅いから、来てやったんじゃねーの。それより、」

これ、一斉送信されたくなきゃ、明後日、俺に付き合え



その時の不敵な笑みは、今やプールではしゃぐ幼い笑顔に変わっていた。

「だっはー!!ちょーちめてぇー!!海堂も一緒に入れ!」
「うるせぇ。一人ではしゃいでろ」
「…んなんつまんネーから、あんな可愛い海堂の写真を我慢して送信してないのに…」

そうか、そうか、海堂はいいのかぁー。といって、
桃城はプールから上がろうとするので手に負えない


そんな事を言われては、入らないわけにいかないではないか。



「はいる…!はいるから…」
「ははっやった。」


だいたい、こう言う事は他の奴を誘うべきだ。
俺が、こんなところで一緒にはしゃぐような奴じゃ無い事は分かっているはずだ。
もっと…、他に。
想像して、墓穴を掘った。
そら、そうなのだ。アイツになんか、もっと楽しそうに
過ごせる奴なんて一杯いて。俺なんか相手にしなくていいんだ。


海堂は、自分の顔の変化を悟られたくなくて水に顔をつけた。
死にそ…。
自分ばっかり、好きな気がしてくる。



「…かいど。何、もぐりすぎ。」
「うるせぇ」

顔を上げてみれば、桃城は眉をよせて俺を見ていた。
やめろ、その顔。

俺じゃなかったら、もっと楽しそうにしてたんじゃないかとか。
そんな変なことが頭をもたげる。




「…帰るか、海堂?」



ああ、もう…。無理、

泣く。





「俺はいる」
「ん、海堂がいるなら、俺もいる」




つまんねーんなら、帰れよ。
少し睨んだ時、桃城がふっと力を抜いた。


「…、海堂。ちょっち来い」


プールなんて、人がたくさん居て
手を引かれた瞬間、正直びびった。





抱きしめられた時は死ぬかと思ったけど。


「や、離しやがれ!!」
「だーいじょーぶ、友達同士でじゃれてるようにしか見えネーから」



たしかに、周りなんか俺達をまったく気にしていない。
遊び声が変わらず飛び交っていた。




俺のほうがでかい筈なのに、アイツは俺をすっぽりと抱きしめている。
ぺた、と桃城が海堂のほっぺに顔をよせる



プールの中、冷たい水でお互いの熱がいやでも伝わる


「おい…。いい加減に…」
「そろそろ、離さないと変な目でみられるな?」


はっとして海堂は桃城の顔をみると、にやーっと嬉しそうに笑っていた。

「ば、っ」
「薫ちゃん。」


名前を呼ばれた瞬間、身体を離される。

やっと、身体を離してもらったことに、一瞬寂しさを覚えながらも、ホッとしたが











「愛してる」







体が離れたところからの愛の告白は
嫌なほど、プール会場に響き渡った。








「ばかやろっ!!」



2009、8月3日



うれしくても、これじゃ喜ぶより、恥ずかしさが勝つのです

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