桃海御題

□15.腕の中
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ランニングをしていると
子猫の鳴く声が草村からして
俺は誘われるように
その鳴き声の方に分け入っていった

はい出たさきは
まるで夢の世界にいるように
温かな日差しがふりそそいでいて

そこに静かに眠る一匹と一人がいた


「なにやってんだ…馬鹿」

きっと学校帰りなのか
学生服のまま草の上に寝転がる馬鹿面に
若干呆れた顔をしてみるが
すやすやと聞こえてきた寝息に
思わず口許が緩んだ

そして桃城の腕にはいっている子猫をみて
さらに破顔しかけて
口許を手で押さえる


少し…触れたくなって
子猫に触れる為に
桃城の腕をずらす

喉元にふれて直ぐに
子猫は眼をパチリと開け
俺はぎくりとして動けなくなった


逃げると思っていた子猫は意を反して俺を見つめたまま
触れていた指を嘗める

俺は嬉しくて
子猫の頭を撫でてみた

不思議な所だ
さっきまで聞こえていた車の音がしない代わりに
鳥の囀りが聞こえてくる


まるで…


「んぅ…」


桃城が少し唸るような声に桃城の方をみる
起きたのかと思ったが…

まだねているらしい


俺は安心して再び猫に視線を向けると

猫は調度よく大欠伸をする
かわいらしさに堪えかね
顔を擦り寄せて
温かな毛の感触に口許を緩めた瞬間



ぐいっと抱き込まれるように
前のめりに桃城の腕の中に抱き込まれてから

驚いて直ぐ桃城だと気づく

「なぁにしてんの…海堂、そんなに寂しいの?」

「ってめ…!」


文句を言おうとして直ぐに猫の存在にはっとし
身体を引きはがそうするがかなり力強く抱きしめられていて
剥がすに剥がせない

必死になって抵抗をしているうちに

頭のほうからする猫の鳴き声に気づいて
ほっとして力をぬいた


「子猫潰しそうになったじゃねーか!ばか!!」

「つぶすわけねーだろー… それよりさぁー」



俺家で寝てた筈なんだけど

これって
夢だよなぁ…




そう、不思議なことを言った。



「なにいってんだ…」



馬鹿だな…

そうは言っても
先程感じた『まるで』はその通り

ここは、まるで夢の世界のようなのだ、
世界から切り離された穏やかな空間は
自分達だけしかいない錯覚を起こして…

そして、困ったような顔をしている俺に
桃城はふわりと笑って
抱きしめたままオデコに柔らかいモノを押し付けた


「大丈夫、お前は離さない…。」




そこで、
目が覚めた。







暖かさが身体を包んだまま
ああ…、昨日桃城と…



あいつの素肌の感触に抱きしめられているのに
酷く安心して胸板に顔を擦り寄せた


すると自分を抱きしめる力が強くなったのに
桃城が起きたのだと気づいた

そして耳元で呟かれる




「な、離さなかったろ…?」




一瞬夢の話かと思って驚いたが
昨夜を思い出して考え改めた



実際今の俺達の年齢は
もう二〜三年すれば三十路のおやじのなりかけで

最近みるのはあの頃の自分の夢
何だか涙が出そうだった。


三十路、なんて
もう結構みんな結婚してたり
子供がいたりして


このままコイツといていいのか
酷く辛くなった







昨夜
俺は別れ話を切り出した

今更…、だけど
今だって死ぬほどコイツが好き

大人になったコイツは
昔より背だって伸びてて
変わらない笑顔と、嫌らしい笑み、
何より独特の色気がある

考えてみれば女なんて
たくさん選べるに決まっているんだ


俺なんかの為にコイツの未来を潰したくなかった







なのにコイツときたら…
俺の別れ話を笑い飛ばした
なんで笑うんだと…、怒鳴り散らしても笑って

それでいうんだ


「てめー蝮のくせに、またオセンチさんなのかよ
大概にしろよ…、お前は俺のもんだ…」



言葉尻はもう笑ってなかった


シャツを脱ぎ捨てて覆いかぶさってきた
男の身体は綺麗で


一生…、この身体じゃなきゃ
欲情さえ出来ないのだと悟った、





意識が消える間際
涙を零しながら懇願した言葉は


「離さないでくれ…、」



だったのだ。




2011 2 14
大分前からかいてたけど
更新してなかった

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