桃海御題

□11.脱衣
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 気付いた時には遅かった。

背後から抱きすくめられた俺は酷く焦ったのだ。






 


 部活が終わり自分の自主練も終えて、俺が着替え始めるころには
もう周りは薄暗くなっていた。

部室にも、もう部員の姿はない。

大石先輩から預かっていた鍵で部室を閉めるのは俺だったから、
人がいないことに少なからず安心した。

 もし、相手が帰らなければ俺は待たなければならないし、
相手は相手で、早く帰らなければと焦るとか、

そういうやり取りを俺はとにかく面倒に思ったからだ。






 だけど、もともと怖いものを苦手とする俺には
部室の薄暗さは不気味で、さっさとこの場から立ち去りたい思いが強まり、
急ぐように着ていた上着を脱いだ。


さっさと着替えて、帰ろう…


 こーいうときほど、手はもたつく。
焦ると背後に誰かがいるような気がして
わたわたと、まったく指がいう事をきかないのだ。


漸く上に着ていたものを全部脱いで、
ワイシャツに手を通そうとした時だった。











 いきなり、なんの前触れもなく背後から抱きすくめられる。
喉がひゅうっと悲鳴を飲み込んで
それで顔から血の気が引くのがわかる。




「っ、…!」



 でも、こんなことしてくるのは一人しかいないと思った。
だから声を荒げた。


「も、桃城、はなせ!」



 しかし、後からは返事はない。


「…桃城だろ??」

  
 今度は確かめる様に。
それでも、返事がない。

俺は怖さで、足の力が抜けて背後の存在に
もたれながら崩れていく。


そこで、初めて背後の存在は声を上げた。



「おわっとと、、」



 その声はまさしく奴でしかなくて。




「…っ桃城!!!!!」


「あ〜わり。そーんなにびっくりするなんて思わなくってよ」


 言葉の割に悪びれた様子もなく、桃城は俺を見下ろしていた。



「てめぇはっ、いるならいるって言え!!」


「だってーん」



 海堂が着替えてるんだもーん、



 

 思えば
海堂が着替え中に感じていた人の気配は
実際に存在していた桃城のもので、
 


「…てめ、ずっと見てたのか、」


 悪趣味な奴…。



「見てたっつーか、声かけよーとしたんだけどよー」

「なんだよ…」





 海堂ーの身体、キスマークだらけなんだもん。



 その言葉に俺は慌てて身体を見まわし
体中にある赤いうっ血に気付いた。



顔に熱が集まる。






 昨日、この場所で、付けられた跡だ。




「そんで…、いろいろ思いだいたら元気になっちゃって。」



 ちろり、と桃城は今度こそ
申し訳なさそうな顔をして俺を見た。


「できれば、してほしいんだけど、…」


「なっ…」




 ここでいう、桃城のしてほしいは、


「舐めてく…」

「断る!!」



 今から家に帰るというのに、口の周りを汚して帰れというのか、

冗談じゃない。


(洗えばいいとか、そういう問題じゃない)




「じゃ、手でいいから!!」


「いや!だ!」


「なんで!!」


「なんでもだあ!!」



いい加減必死な桃城に呆れてくる、




「だったら。抜くネタでもいいから提供してくれよ」


 これで、一歩譲ったつもりでいるのがまたむかつく。

 だいたい、家に帰れエロ本でもなんでもあるはずだ。
俺が、わざわざ恥ずかしい思いをして
この馬鹿にネタを提供するまでもないはずなのに、





「エロ本じゃ駄目じゃねーんだけどよ、」


 俺の心を読んだように、桃城はそう言い放った。



「エロ本だって抜けるけど、、海堂がいっちバーン興奮するといいますか…。」



「っつ…!」



「どーせなら、気持ちよく抜きてーじゃん」




 いっそすがすがしいまでに言い放たれた言葉に

俺は言葉を失う。






 馬鹿なことに、俺はすごく嬉しかった。

卑怯だ。
この馬鹿、俺がお前をすっげえ好きだってわかっていうから。









「ってことで、」




 着かけていたワイシャツは桃城によって脱がされる。



言いくるめられた感は否めないが、
すでに俺自身、その気になってしまっているし、



俺って以外にも簡単な人間なのかもしれない。

と、これに関してはすべてをあきらめた。











貴方のための体のようなものだ。

煮るなり、


焼くなり





2012 1 24

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