桃海小説(短)3

□あしばやに
1ページ/1ページ


 例えば、君の嫌いな所は数えきれない程言えるのに、別れることが出来ない理由が分からない。
今日だって喧嘩をした。

 些細なことで。

 喧嘩をしながら、君を罵倒する言葉なら数えきれないほど知っていて、
君を好きな証拠は何一つ口に出せない自分に嫌気がさした。










「本当は好きじゃないんじゃない?」

 もちろん相手が海堂ということは言えないが
 海堂と喧嘩した後はいつも、誰かに愚痴をこぼして、呆れられる。


「……そんな彼女なら、俺わかれてるけどな。付き合ってて楽しいわけ?
 そんな可愛げのねぇ彼女?」


 言われて言い返せない俺は最低なんだろうか。
でも、海堂は女じゃないし、可愛いなんて良く分からない。

 …でも、傍から離れようという気持ちにはなれなかった。






「なんでかねぇ…ほんとに」


「んな曖昧な愛はどうかとおもうぜ」



 どうかと思う、俺も。
でも、帰れば海堂が待っててくれると思うと
どうしようもなく駄目なんだ。

喧嘩してても、
アイツは俺を待っててくれるし、
俺も、
アイツを待っていたい。



 
アイツのごはんが食いたい。

アイツに怒られるのも実は嫌いじゃないんだ。



泣いた顔が見たい



アイツの肌が触りたい。







「う、っわ、うわ。…」

「な、なんだよ、?どうした桃?」

「…俺、」












お前と付き合ってていいかわかんねえ

どうっでもいいや、もう、お前のことなんか


もう帰ってこねーからな!













「結構なこといって、飛び出してきちまった…」

「なんだ、ちょうどいいんじゃねーの?」




 
違う、

違うんだよ。






「やっべー!やっべー!!ダメダメ、
 帰んなきゃ!」


「おい!!桃!おまえ!呼び出しておいて!」


「わりい!!!ほんっと、今度埋め合わせすっから!」




 飛び出して、後ろからふざけんな!とか罵声が聞こえてきたけど
そんなことはもう、後でいいと思った。








 海堂は強いから

普段は絶対に泣いたりしない。
俺にどんなに傷つくようなことを言われても、
逆に俺に一撃必殺の一言を投げつけてくる。


そんでもって、イライラしたり
どうしようもないことがあると、
なにかにコツコツと集中してしまったりして、



あーもー
とんでもなく、






「ただいま!!!」


 扉を開けて、俺は靴を脱ぎ棄てて台所に向かう。
そして、彼の後姿を見つけて
息を乱しながらに「ただいま!!!」と言った。


海堂はびくりと震えると、
それでも、こちらを振り向かない、



 ただ、もくもくと野菜を切る単調な音がリズムよく続いている。






今日は、きっと野菜サラダがテーブルに山盛りに乗ってしまうのだろう。

しばらくして、
海堂は振り向かずに、声を出した。





「…帰ってこないんじゃ、なかったのかよ…」



 やはり、傷つけていたことに
俺は後悔の念に押しつぶされそうになりながらも
軽い言葉を返してみる。




「あ〜、えー?いったっけ…??」


「し、しらばくれんな!!!」


 思ったより感情的な声が帰ってきて、
俺は確信した。



「俺が、どんな気持ちで…っ。
 お前なんかにはわからねーかもしんねーけどっ、俺はっ」


「なぁ、海堂」



 海堂の手元を掴んで包丁から手を離させる。
すると、すぐに海堂は骨が抜かれたように
ふにゃりと力を失って前のめりに崩れていく。


そして、膝を抱えてしまった。




「海堂。」

「や、やめろっそれ以上先は、いい、
 言わなくていい!!!」

「ちげーよ海堂、ほらこっち向け…?」


 しゃがみこんだ海堂の肩に腕を回して
抱きしめながら顔を向かせる。

そこには、眉間に力をこめて懸命に涙をこらえる海堂がいた、

それでも流れるものは流れる。
後から後から、
我慢しているはずのそれは、俺の手を濡らす。

涙だった。



「ぶはっ…」


「わ…笑…っ!!!」


「わ、わりー、お前面白い顔してっから…ぷ、くく、、」

「な…っなっ…!!!!!!」



 海堂が本気で怒りそうになったので、冗談はそこそこに
真剣な顔をして見せる。

すると海堂は不安そうな顔を見せた。


 なにも、不安になる事なんてないのに。





「海堂、俺、お前の泣き顔が好き。」


「は、」



 海堂は酷くびっくりした顔をして
俺の顔を凝視した。


可愛い、と思った。



今までも、
これからも、やっぱり、思うんだ。





「だーから、そんなに泣くことねーんだよ」


「そ、れ、そんな、矛盾してっ」


「いーの!」



にっと笑って、海堂の涙の後をぐいぐいと拭いてやる。




「お前の飯も!ちょっと汚すと怒られるのも!
 お前の肌も、だーーーい好物なの!!」







 ここまでくれば、別れるなんて思えないだろ、




こんなに愛し合ってるんだから







2012 1 11

ねーこれねー
2011年からずーーーーっと
放置してたやつ よ。

ううううう。


ごめん。
不完全燃焼。

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ