桃海小説(短)3

□チガエド
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「お前は、誰だ?」





 暫く会っていなかった恋人に、会って言われたセリフがこれだ。

 あっれ――?

なんか悪いことしたっけ、
暫く会っていなかった恋人はふつう
会いたかった、……俺も。みたいなアレが望ましいと俺は思う。


それがどうした事だろう。


恋人の顔色に嘘偽り無きまでの、「お前、誰だ」に俺のガラスのハートは粉々だ。


 しかし、海堂の反応は実はしょうがなくもあったりする。


 つまりは、俺はいつもの姿をしていないということで
いつもはパリパリに立てている髪が、へたりとしなびていたり
生えていない髭が生えてたりして


所謂、ワイルド系男子って奴で…、






「不法侵入だぞ…、」


「俺!桃城!!!」





首根っこ掴まれて、ドアから出されそうになったときに
俺はようやく言葉を発した。

その声に海堂はぴくっと動きを止めると
俺の体を反転させ、まじまじと顔を覗き込んで来た。

やだ、もう、そんな顔でのぞかれたら興奮しちゃうじゃない、
とか思ってるうちに、海堂は俺の首根っこから手をはずして
「なんだ、てめーか、」
と、しらっと言い放った。



「なんだとはなんだ!テメー、俺がわかんないってどういうことだよ!」


「ふん、しばらく会ってない奴の顔なんて覚えてるか、
 俺にそんな野性的な知り合いはいねぇ…」


「や、野生…、ワイルドっていえ!!」



ワイルドもどうかと思うぞ、と海堂のセリフに、そんなことはないと頭をかきむしった。



「お、お前、風呂はいってたのか!?なんか、汚ねぇぞ…」

「しつれーな奴だな、毎日はいってたよ、
 今日は灰の近くいたからさー」


「……ああ、…てめぇは、キャンプだか何だかにいってたんだもんな」




 海堂は、それだけをいうと、少しだけ寂しそうな顔をして顔をそむけてしまった。
キッチンに仕事を残したままらしく
歩みはキッチンへ向かっているようだった。





 …帰ってきたとき、海堂の一言で気付かなかったが
ふいっと、顔をそらしてしまった海堂はエプロン姿で、





玄関には、俺の好きな食いものの匂いが漂っていた。











 今日帰ることは、伝えていた。








俺の姿をみて、俺だと気付かないわけはないんだ。
だって、髭だって、髪をおろした姿だって海堂にはそういえば見せているのだから。




俺が帰ってくるのを心待ちにしてくれてた?

だから、好きなくいもん作って待ててくれた?



俺がいない間、寂しいと思ってくれてたのか?








彼の背中がキッチンに消える前に、
帰ってきたときに言い忘れた言葉を思い出した。

そういえば、忘れてた。












「ただいま」











海堂は歩みをとめ、
複雑そうな顔をしながら俺の方を少し振り返った。






「…おかえり」









緩む顔を抑える必要はない。
しょった鞄を、履いていた靴を脱ぎ棄て


廊下を走って海堂に抱き着いた。



「ただいま!!!」






苦しそうに悶えながら海堂は、それでも
しばらくして諦めたようで、
静かに、それでも男らしく
俺の背中を抱きしめた。




「一か月は、ちょっと長かったな…、」

「……当たり前だ」



肩に顔を埋めて息を吸う。



久々の、匂いと感触に
ああ、やっぱり好きなんだ、と思った。










「…じゃあ、今日は再開を祝して一か月分、営むって、あり?」

「ふざけんな」

「せっかく、俺今見た目野獣なのに〜?
 頑張っからさぁー、なぁ〜。」



呆れた海堂は、ため息をついて俺を見据え




「飯、くってからな」






そしてキッチンに向かう彼を見ながら
俺は赤面していた。

だってあれは卑怯だろ!






2011 6 11


次の日休みなら

一日中いちゃこらすればいいさ!

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