桃海小説(短)3

□健やかに皺
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健やかなる青年たちには、そうであっては成らない鉄則を持ち合わせていたりする。

例えば、それは大人達が望む若者達の姿であったり、
また若者同士のお互いの理想であったり。



まぁ、そんなもの、
この二人には何一つ関係のないものでもあるが…。










海堂と桃城は同じ大学に入り、寮生活を始めた。

寮は基本的に1人一部屋割り当てられ、個人のプライバシーも守らる上に、
趣味に徹したり、勉強に励んだりする者にも使い勝手のいいものなる…

…という、本来ならそのように使われるべき部屋は、
この二人によって何時も片方には人がいない。






「海堂ー、醤油とって」


「お前の方が近い。」





幾分か体の重い朝である。
昨日の夜は、桃城の部屋に連れ込まれて
結局自分の部屋に一人で寝ることの出来なかった海堂は

少し、機嫌が悪い。





「ンで…、そんなに機嫌わりぃかな…。」


桃城が齧り付いた焼きたてのトーストからは、パンのいい香りがして、
海堂の手作りらしいイチゴのジャムを塗ったそれは完璧に等しい。

それを3口程で食べ終える桃城を、目の端で見て顔が緩みそうになるのを海堂は抑えていた。




桃城と一緒に部屋で過ごすようになったのは、寮生活をし始めて4日たったころだったと思う。

今思えば、どうしてそうなったかなんて覚えてはいない、
いや、忘れてしまいたい…というのが事実でもある。






寮の一部屋にはテレビがなく、個人がそれぞれ持ち合わせるのが普通で、
お金に余裕のあった海堂は、寮の部屋に似合ったテレビを置いていた。

もちろん、桃城にそんな余裕があるはずもなく、
その4日経った日に我慢の限界だ!と海堂の部屋に押しかけてきたのだ。


なんでも、新作ホラー映画のテレビ初登場だ、とかなんとか言って、
なんといっても、海堂が一番苦手とするものであったから、知っていてやってるんだろうが、無意識なのなら性質が悪い。



新作ほど怖いものはない、最新の技術とセンスによって
さらに人を驚かせるすべを知ったカメラアングル、

海堂は殺される…と思った。

ほどなく2時間ほどで終わったその映画に
海堂は項垂れ、体を震わせていた。

これでは何処にも行けない。




ついでに言っておくと、トイレとお風呂は共同である。





満足げな笑みを浮かべた桃城は、「ありがとな」というと、部屋から出て行こうとしたのだ。
信じられない、
今からこの暗闇の中でどうやって過ごせばいいんだ!!

よく見れば、天井の模様がところどころ顔に見え始めたし、

ベッドの下の空間から、髪を長く伸ばした奇声を発する女が出てきたらどうしようとか…


不安で体の置き場を失った海堂は、無意識に桃城のシャツの裾を掴んでいた。
海堂の不安な瞳は桃城には、どのように映ったのだろうか、
アーモンドの形をした瞳が海堂を捕えて、酷く穏やかな形になる。


その日、海堂の部屋で二人一緒に目を瞑った。










ぼんやりと、その時のことを思い出した海堂は、アロエヨーグルトを口にゆっくりと含んだ。


結局あの時はナニもしてこなかったな…。




てっきり、謀られたんだと思ってベッドの中で10分位は警戒していた海堂だった。
だけど、予想に反して桃城は一切手を出してこなかった。

寄り添った体は暖かくて、
自然と恐怖は体から忘れ去られていた。
ゆっくり回ってきた腕が海堂の肩を抱きしめて、足が絡む。


思い出して、頬を染める。
人生で初めて、というくらい穏やかな眠りだった。





あれから、一人で寝ることがなくなり、
桃城が、事あるごとに、「海堂ーさみしいだろーから」と
海堂の腕を引っ張り部屋に連れ込むのだ。


大半が桃城の部屋で、理由といえば桃城の部屋が汚くなるのを
継続して海堂を連れ込むことによって
綺麗が持続する…ということもある。






海堂は焦っていた、

こんな穏やかな朝も、穏やかな眠りも、
とても幸せで、心地が良い、

それだから、この夢から覚めたとき、
自分は二度と立ち直れない。
一人で眠ったりなんかしたら、きっと思い出してしまうんだ…と。


この穏やかな領域で、海堂は一人、決心を固めたのだ。












その夜。
何時ものように桃城が海堂の部屋にやってきて、腕をつかんだ。

しかし、海堂は意を決してその腕を振り払った。
驚いた顔をした桃城が、眉をひそめる



「…どうしたんだよ…、一緒に、ねねぇの?なんかしたっけ、俺」


「違ぇよ、そう毎日お前と寝てられるか」





出来るだけ素気なく。


桃城から目をそらす、が
それは許されなかった。





カーペットに背中を打ちつけて、桃城に腕を縫いとめられる。
一切無駄の無い、相手の動きを封じる術だ。


「っ…ナニしやが…」

「ふざけんな…」


逆光で見えなかった桃城の顔が見えてくる。
脅すようなそのセリフにはとても似合わない、泣きそうな顔で海堂を攻める。


海堂は息を吞んだ。



「なんだよ、お前は、余裕ってわけか…。
 俺、が、もう手遅れなのに…」


酷く悔しそうで、切ない表情。
唇が動いて、それはそのまま、海堂の首筋にねっとりと這っていく


「…っ、」


海堂の喉が跳ねるのを見て、桃城は唾を吞みこんだと思うと、喉仏より少し上に咬みつく。



「ぃ、やめ…も、もしろ」


縫いとめられた手が外れて、慌てて桃城の胸板を押すがまったく意を返さない。


そして、桃城は咬みつきながら、その手を持って海堂の下肢を布越しに触る。


「っ…」


海堂は眉を寄せて、必死で耐えた。
のど元を咥えられた状況では、まともな抵抗も出来なくて
瞳からは涙がこぼれる。





そういえば、暫くこういう事をしてなかったように思える。
二人でいた、あの穏やかな空間に満足していたからなのかもしれない。



久々のその快楽に海堂はすぐに飲み込まれた。







何処からか取り出したのかわからない潤滑油によって介された海堂の奥は
ぐちゅぐちゅと卑猥な音をさせて二人を煽った。





「は、ぁ…ぁあ」








指が抜かれて、代わりに入ってきた桃城自身に
吐息のような、嬌声のような息を吐き出して
海堂は悩ましげに眉を寄せた。





それも、すぐ、うっとりとした表情に変わる。




すでに力の入らない腕で、桃城の背中を広く抱きしめ、
首が座らなくなったのか、喉をさらけ出して
床に頭を預けて、頬は上気していた。


桃城は、その煽情的な海堂の姿に堪らず
今まで緩やかだった動きを強くした、



「…っぁあ……く、んぁぁ…、」



海堂は背中に回した腕の力を強くしてさらに絡ませると、
やはり力が入らないのか、首はだらりとしたまま床に頭を預け

先ほどよりも鮮やかな声を漏らし始める。





「も、も、もも…ぃろっ、もも、し、ぉ」


「う、…はぁ、…ん、うん。…うん」


名前を呼ぶ声に、快楽に完全に飲み込まれないように眉を寄せて耐える桃城は
必死で、頷く。



















自分だけではなかったんだ。

あの、とてつもなく恐ろしい感覚に襲われていたのは。


海堂は、生理的ではない涙を瞳いっぱいにこぼして、嬌声と鳴き声でぐちゃぐちゃになった。



「…か、い、どう?」



その異変に気付いた桃城は、動きを止めて海堂の顔を覗く。


「い、…痛かったか?わりぃ、」


汗の粒がたくさんついた桃城は、心配そうに海堂の頬をなでる。
それでも首を振って泣き続ける海堂に、不思議そうにしながら「どうした?」と聞いた。




「おれ、…お前っと一緒に寝てると、すごく…しあ、わせ、で、」


「うん、俺も、」


しゃくりあげる海堂を宥める様に返事をする。



「で、もっ、もし、お前がいなくなったら、お、れ。
 そんな、たえられねぇっ…っ」






拙い言葉で、たぶん内容も伝えきれていないだろう。
その内容は、きっと桃城の不安と一緒に違いなかった。











その日は、久しぶりに海堂の部屋で二人で寝たのだ。
違うのは、今まで募らせた二人の不安を打ち明けたこと。

たぶん、明日にはきっと何時も通りになる態度も、今はない
甘く二人を包んで、
二人は睡魔によって眠りの世界に入るまで
寝転んだまま向き合って、ゆるく抱きしめてキスをしたり、手をつないだりしていた。

















「くそ、!!てめぇどうしてくれる!!動けねぇじゃねえかっ!!」


「あーも、そんな叫ぶなよ、近所迷惑だろーが。今日は俺が世話してやるからぁ。」


「んなもんいらねえ!!!」





それでも、訪れた日常は、
健やかとはかけ離れた、二人の後始末。





2011 1 23


咲耶様へ、「海堂の部屋」ってことで、
こんなんでよかったでしょうか!
半分もう、これパロディー状態ですが、
桃海歴が長いと、二人は既に社会人になってしまう。病気です。

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