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□The world was beautiful.
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200×年、夏。
眩しい太陽が照り付ける中、健闘虚しく、俺達の中学生生活最後のテニスには終止符が打たれた。

「…亜久津、」

「あぁ。」

「俺達、負けちゃった。」

「あぁ。」

珍しく会場の外で俺を待っていたらしい亜久津は、他に何を言うでもなく、俺が歩く歩調に合わせて共に家路を辿り始めた。
ざっざっと、アスファルトの上を引きずるように歩く自分の足音だけが耳につく。

…労いでも罵倒でも何でもいいから、一言だけでいいからなにか言ってよ。お前にしては頑張ったなとか、高校行ってもテニスなんかできるだろとか、時化た面してんじゃねえよとか。

「……なんでかなぁ、あんなにみんなで毎日頑張ってきたのに。」

悔しい。そう吐き出すと同時に、俺は未だに自分が思っていたよりずっと感情が高ぶっていて、そういえばクールダウンをしている最中どころか、伴じいが俺達に最後にかけてくれた言葉すらもろくに覚えていないことに気がついた。

このとてつもなくかっこわるい今の俺の姿を、早くいつものぶっきらぼうな言葉で誤魔化してほしかった。だけど亜久津はそれを絶対にしない。だって、それは弱い人間同士がすることだと、亜久津は分かっているから。

知らんぷりするみたいに静かに横で煙草を吹かす亜久津の手を意味もなくぎゅうっと握ってみると、暫くしてから少しだけ強く握り返してくれた。ああ、外はじりじりと焼けるほど暑いというのに、俺の体に伝える熱はいつだってこの手の平だけだ。

「……………仁、」

「…!ッン…はっ……!」

俺は自分から唇を触れ合わせると、驚きに薄く開いたままの唇から、無理やりに捩じ込むように自らの舌を咥内へと滑らせる。そして亜久津の舌を吸って、ねっとりと愛撫をしたあとに、更に奥までこれでもかというくらいに舌を絡めた。
貪るように交わした突然のキスの反動で地面に落ちてしまった煙草は、アスファルトの上で残り火を必死に燃やしていた。

「………俺さ…お前の為に、どうしても勝ちたかったよ……」

数時間前、確かにあのコートの上で、君に勝利を誓ったというのに。俺達の明日は、そのたった数時間の間に絶やされてしまった。

本当は、君が去っていったテニス部の成長を見て、少しでいいから此処にいた事も悪くはなかったかもしれないと見直してほしかった。なのに、結局試合にはボロ負けするし、亜久津には最後に弱い俺達しか見せることが出来なかった。
そんなやり残したことだらけの俺に、今更掛ける言葉なんかないのかもしれないと思うと、余計に悲しかった。

だけど、我慢できずに零れだした涙も拭うことなくただただ一層強く彼の大きな男らしい手を握り返すと、亜久津は俺のオレンジ頭をぐしゃぐしゃに掻き混ぜた。

「…バーカ、泣いてんじゃねーよ。」

その、俺の頭を乱暴に撫でながら呟いた亜久津の一言は、まるで「まだ終わりなんかじゃない」と言ってくれているようで。
俺は泣きながら小さく笑って、頭に置かれたあたたかい右手に手を添えたまま静かに目を閉じた。


The world was beautiful.
(だいじょうぶ、明日はちゃんと笑えるよ)







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