story

□駆け引きはいつだって
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不意に、くすぐったさを覚えて肩を竦めた。

フワリと首筋に触れる銀色。

肩に加わった重み。

私の腰をさらに自分の方へと引き寄せて。

そうして銀ちゃんはもう一度ギュッと回した腕に力を込めた。

ジャンプを読み終わった途端に、構ってくれと言わんばかりにこうやって擦り寄ってきて。

さっきどれだけ私が話しかけても、ジャンプに夢中になって構ってくれなかったのは、それどころかこっちを見てもくれなかったのは一体どこのどいつだ。

思わずそう怒鳴ってやりたくなったけれど、そこは何とか堪えて再びテレビに意識を集中する。

ここで振り向いたりなんかしたら、相手の思うツボだ。

それなのに背後の男ときたら、私が何の反応も返さない事にふてくされて。

そうして大きな手で私の両目を覆ってしまった。

…ああ、何て勝手な男だろう。

視界は奪われ、体は力強い腕に閉じ込められて、全く身動きがとれない。

唯一自由がきく口は、だけども絶対に名前を呼んでなんかやらない。

というか、もう今日一日は一言も口をきかないでいてやろう。

私がどんな気持ちだったか思い知ればいいんだ。

そう、思った。

思ったのに。

「神楽。」

一瞬、ビクリと肩が揺れる。

耳元で低く囁かれて。

目が見えないので、嫌でも意識がそこに集中してしまう。

「神楽。」

甘えるようなその声音は少し掠れていて。

背筋がゾクリとした。

ああもう、そんなの反則だ。

ついさっき固めた意志なんて、途端にグラリと揺らぎ始める。

「神楽。」

首筋に口付けられて。

そっと手を取られたかと思うと、指先にも柔らかい感触が。

ああ、もう、本当に。

(……ズルイ。)

その言葉は何とか呑み込んだけれど。

代わりにため息を一つ。

いつだって私は銀ちゃんには敵わない。

目を覆う大きな手をそっと外して。

そうして、ゆっくり振り向いて。

仕方がないから、この寂しがり屋な大人を構ってやるとするか。

「何アルか、銀ちゃん?」

名前を呼んであげると、銀ちゃんは酷く嬉しそうな顔をしてもう一度私を抱きしめた。




end.
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