story

□どんなキミも
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そうだ。

銀ちゃんは素直じゃなくて天の邪鬼で。

そしてオマケに、いい年して寂しがり屋なのだ。

たぶんあの後、銀ちゃんはすぐに帰ってきたのだろう。

そのまま一人で眠れなくて、こうして私を和室まで運んできたんだ。

その光景が目に浮かび、思わず口元が緩む。

「…俺が、何だって?」

「!」

不意に聞こえた声に驚いて顔を上げると、不機嫌そうな顔をした銀ちゃんが私を見下ろしていた。

「…起きてたアルか?ってか、盗み聞きなんて悪趣味ネ。」

「…たまたま目ェ覚めただけだっつーの。それより俺が何だって?」

「…別に何も言ってないアル。」

「嘘つけ。寂しがり屋とか何とか言ってたじゃねェか。」

バッチリ聞いてるし。

やっぱり起きてたな。

「だって本当のことアル。」

「はあ?俺が?何言っちゃってんの、お前。」

あり得ないとばかりに否定する銀ちゃんに、ここは負けじと言い返す。

「じゃあ何で私ココで寝てるネ?」

「…知るかよ、お前が寝ぼけたんじゃねえの?」

そう言うと思ったけど。

シレッとした顔しやがって、この天パめ。

「…ふーん、じゃあ押し入れに戻るから手ェ離してヨ。」

すると途端に黙り込んでしまった銀ちゃんは本当にわかりやすい。

「………。」

銀ちゃんが何て言うかもう大体予想がつくけど、あえて銀ちゃんの顔を覗き込みながら聞いてみる。

「銀ちゃん?」

「ダメだ。」

案の定、銀ちゃんは不機嫌な表情を隠しもせずにたった一言そう言って、抱きしめる腕にさらに力を込めた。

「ここにいろ。」

掠れた声で拗ねたように呟く。

そんな銀ちゃんが何だか子供みたいで可愛くて、つい意地悪を言ってみたくなって。

「私なんかもう知らないんじゃなかったアルか?」

「だからそれは…」

あ、焦ってる焦ってる。

たまにはこんな銀ちゃんを見るのもいいかも。

ひとしきりアーとかウーとか唸った後、結局銀ちゃんは誤魔化すように私の顔を胸板にギュッと押しつけた。

「……あーもう、いいからさっさと寝ろよ!ガキが起きてていい時間じゃねェぞ、コノヤロー!!」

少し上擦ったような声が可笑しくて、私は銀ちゃんにバレないように笑いを堪えながらその広い胸板に頬を擦り寄せた。

しばらくすると銀ちゃんの寝息が聞こえ始めて、その途端に私も睡魔に襲われる。

ゆっくりゆっくりと瞼が閉じていく中、銀ちゃんに小さく「おやすみ」と囁いた。

きっと朝になって目が覚めたら、銀ちゃんも私もケンカのこととか忘れてしまってるだろうけど。

それでも。

今夜こうして見ることのできた銀ちゃんのいろんな一面は、ちゃんと私の目に焼きつけて覚えておきたい。

薄れていく意識の中でそんな事を思いながら、私もまた眠りに落ちていった。




end. 
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