story

□俺と彼女
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がっついてると思われたくない。

だけど、今すぐにでも触れたい。

こんな葛藤をさっきからもう何度繰り返してるんだろう。

チラリと右隣を盗み見れば、そこには愛しの先輩。

ハムスターよろしくポップコーンを口一杯に頬張って映画に見入ってる。

何この人、スゲー可愛いんですけど。

イヤ、先輩が可愛いのは前から知ってたけど。

思わずその柔らかそうな頬をつついてみたい衝動に駆られる。

だけど、そっと手を伸ばしかけたところで大きな丸い目と視線が合った。

「何アルか?」

「…何でもないです。」

可愛いらしく小首を傾げて見つめられると、俺はそう言って手を引っ込めるしかなくて。

まさかあなたに触れようとしてました、なんて。

ましてや、さっきから映画そっちのけでそんな事ばっか考えてました、なんて。

そんな事言える訳もない。

そりゃあ邪な気持ちで触れたいなんてこれっぽっちも思って……イヤ、正直スゲー思ってるけど。

だってしょうがないだろうコレは。

今まで俺から何度デートに誘ってもその度に悉く断られていたのに、まさか先輩から誘われるなんて思ってもいなくて。

突然の夢のようなお誘いに、勢いのままこうして一緒に映画を観にきたものの、隣に座る先輩が気になって気になってもう映画どころじゃない。

制服じゃないからか、それとも髪を下ろしているからか、いつもと少し雰囲気が違う先輩に情けないくらいに動揺している。

それに、これが先輩との初デートだっていう事実に、浮かれている反面、朝からずっと緊張しているのも確かだった。

ふと、いつもの俺だったら、と考えてみる。

いつもなら学校だろうが登下校中だろうが関係なしに、先輩とのスキンシップを試みていた。

もちろんさりげなく、そして自然な感じを装って腕や髪に触れていたけれど、結局それは先輩にバレバレで、そうなれば後はウザイと言われようが怒られようがお構いなしだったはずだ。

なのに今日の俺は、いつもと違うシチュエーションというだけで変に緊張しすぎていたのかもしれない。

今の俺は。

「らしくないアル。」

そう、らしくないのだ。

「…って、ん?」

一瞬、先輩の声が聞こえた気がしたけど、隣を見ると先輩はやっぱり映画に釘付けで。

ポップコーンはいつの間にか完食していて、あの可愛いハムスターをもう見れないのかと思うと少しガッカリした。

さっきの声はたぶん気のせいだろう。

だけど、確かに今の俺は俺らしくない。

そう思うと、今まで葛藤していた自分が何だか急に馬鹿らしくなって。

ずっとキツく握りしめていた右手をそっと開いた。

そうして思いきって右手を伸ばし、先輩の左手に重ねてみた。

小さな手は一瞬ピクリと動いたが、俺の手を振り払うことはなくて。

どこまでなら許されるんだろう、なんて打算しつつ、今度は恐る恐る指を絡めてみた。

やっぱり一瞬ピクリと強張るけれど、それでも振り払われることはなく、それどころか、細い指先がほんの少しだけ握り返してくれた。

ああ、きっと今の俺、耳まで真っ赤だ。

暗くて良かったけど、先輩の顔まで見れないのがちょっと残念だと思った。

欲ってのは1つ満たされれば、また次の欲が後から後から湧いてくる。

初めて先輩と会ったその日から、俺の欲は尽きることはない。

近づきたい。

話してみたい。

もっと近づきたい。

触れてみたい。

今こうして繋いでいる手だって、このままずっと離したくない。

そっと握り返してくれている指に、そう思ってるのが俺だけじゃないと自惚れてもいいだろうか。

そうこう考えている内にどうやら映画もクライマックスらしい。

あと少しでこの時間も終わるかと思うと無性に寂しくて。

思わず右手をギュッとキツすぎるくらい強く握りしめてしまった。

「あっ、ゴ、ゴメッ…!」

だけど、慌てて離そうとした手をそうさせまいと掴んだのは、先輩の小さな手で。

驚く俺に、先輩は俯いて消え入りそうな声で言った。

「…別に平気ネ。だから…だから今日はずっとこのまんまがいいアル…」

ああもう、のぼせそうだ。

「ウ、ウン…」

気のきいたセリフなんて全く思い浮かばず、かろうじてそう答えることしかできなかった俺は、やっぱりいつもの俺じゃない。

だけど、それでもいいかと思えるくらいに先輩の言葉が嬉しくて。

手のひらから伝わる温もりに応えるように、もう一度強く、だけど今度はそっと、その小さな手を握りしめた。




end. 
 

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