story
□譲れないのは君だから
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自己中?我が儘?
そんなもん百も承知だ。
だが、何と言われようとも、今さらこの性格はどうすることもできねェんだ。
勝手だと自覚してるだけ俺はまだマシだ、なんて自分自身に言い訳して、向かいのソファーを見やれば。
ついさっきまで自分に向けられていた視線。
気がつけばそれはテレビに奪われていた。
何だか面白くない。
さっきまでは俺のことずっと見てたクセに。
俺よりテレビの方がいいのかよ。
数分前までの自分のことは棚に上げて、俺は目の前の相手にそんな理不尽な感情を覚えていた。
神楽が俺に構ってほしそうにしてたのは分かっていた。
だが、俺はあえて何も気づいていないフリをしていた。
すぐそばで感じる神楽の視線。
それを今、自分だけが独占しているという優越感とその心地よさを少なからず感じていたから。
だけど、少しジャンプに夢中になりすぎてしまったようで。
まぁ、いつものことだが。
読み終わって顔を上げた先、いつの間にか俺じゃなくてテレビの中の人物にジッと視線を向けている神楽がいた。
…何か気に入らない。
すぐに声をかけてこっちに視線を向けさせようとしたが、ふとある事を思いついて、名前を呼びそうになったのを慌てて呑み込んだ。
さっきと立場が逆になって。
神楽がどんな反応をするのか知りたくなった。
そうして向かいのソファーへと移動し、膝を抱えて座る神楽の背中に、自分のそれを合わせて座った。
一瞬、小さな体がピクリと揺れる。
「……何アルか。」
顔を見なくてもわかる不機嫌そうな声音に、やっぱり拗ねてたかと内心で苦笑する。
もちろん、それは自分のせいなんだが。
神楽からの問いにわざと何も答えずにいると、再びその視線は何事もなかったかのようにテレビへと戻された。
「………。」
何となくわかってたが、やっぱり面白くない。
これは俺への仕返しだ。
でも、たぶん今俺が名前を呼んだら、神楽は渋々でももう一度その視線を俺に向けてくれるだろう。
それは確信に近いもの。
だけど、それじゃダメなんだ。
そんなんじゃ満足できない。
俺が呼ばなくったって。
どんな時だって。
いつだって俺だけを見てればいい、なんて。
どんだけ自分勝手なんだか。
神楽のことになると、自分でも呆れるくらいガキっぽい感情ばかり湧いてくる。
だけど、それを抑え込んだりしようという気は全く起こらなかった。
今度は後ろから体を抱きすくめてみる。
「………。」
だけど、それでも何の反応もしない神楽に、自然と抱きしめる腕に力が入る。
視線は未だテレビの画面。
チラリと窺ってみれば、イケメン俳優が主役を演じて話題となったドラマの再放送が流れている。
途端に膨れ上がるのは、どうしようもないくらいの嫉妬。
神楽がこんなチャラついた男なんかに興味がない事は分かっているのに、それでも何故か焦りを覚えてしまう。
一体どんな反応をするのか見たい、なんて思ってたさっきまでの余裕は、たちまち薄れていった。
それなのに名前を呼ばないのは、男の意地。
代わりに、腕の中に閉じ込めた細い体をさらに強く抱きしめて訴える。
『こっちを見て』
『名前を呼んで』
フワリと微かに漂う石鹸の香りに、白い首筋へと鼻を寄せた。
だが、神楽は一瞬身じろいだだけで、依然として振り向こうとしない。
その頑な態度に焦れて、俺は思わず片手で神楽の視界を遮った。
ああ、もう本当に。
敵わねェよ、お前には。
「神楽。」
観念して耳元でその名を囁けば。
一瞬、ビクリと細い肩が揺れた。
その様子に自然と口の端が上がる。
「神楽。」
もう一度囁くと、耳から首筋まで白い肌が見る見るうちに朱色に染まっていった。
「神楽。」
なぁ、頼むから。
首筋にそっと口付けて。
微かに震えている指先にも唇を寄せると。
目を覆っていた手をそっと外された。
振り向いた神楽の青い目に、ようやく俺の姿が映って。
「何アルか、銀ちゃん?」
待ち望んでいたそれは、甘く優しく、耳に響く。
その甘い響きに酔いしれながら、俺はもう一度神楽を強く抱きしめた。
end.