story

□不器用な僕らは
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その日からずっとその不思議な夢は続いている。

起きたまま見る夢。

一体いつまでこんな事が続くのだろうか。

頭の中で問いかけてみても答えは出てこない。

でも、たとえその髪に触れる手が、その囁きが、一時の気の迷いだとしても。

結局は、それを拒むことなんて俺にはできやしなかった。

「銀ちゃん」

ああ、ほらまた今日も。

白くて細い指先が髪に触れて、そして。

不意にピタリと手が止まった。

「銀、ちゃん…」

今にも泣き出しそうな声に胸がドクンと大きく脈打つ。

何だ?

「ゴメンネ、銀ちゃん…」

何なんだ?

言い様のない不安に胸が押し潰されそうになる。

イヤ、本当はもうとっくに分かっている。

分かっているけれど。

「…私もう、銀ちゃんのこと…」


「諦めるから。」


その瞬間、唇に暖かい何かが触れた。
 
一瞬、呼吸の仕方を忘れてしまった。

苦しい。

胸が、痛い。

遠ざかっていく足音に、気づけば走り出していた。

神楽の腕を掴み、引き寄せて。

壊れてしまいそうなほど強く強く抱きしめた。

「銀、ちゃん…?」

戸惑う神楽の声に、より一層強く抱きしめて。

そうして唇を塞いだ。

「んんっ…!?」

一度求めてしまうと、簡単には止めることなんてできない。

何度も何度も、俺はただ夢中になって神楽を求めた。

ようやく唇を離すと、神楽は赤い顔でハァハァと苦しそうに荒い息を吐き出しながら、それでも俺を真っ直ぐに見上げてきた。

何も言わず、ただ真っ直ぐに。

その目は怒っている訳でも、悲しんでいる訳でもなくて。

とても優しいその眼差しに、思わず泣きそうになった。

細い肩に頭を乗せると、小さな手が背中に回される。

まるで小さな子供をあやすようにゆっくりと背中を撫でられて。

「神楽…」

声が掠れているけれど、それでも神楽の名前を呼んだ。

「神楽」

「何?銀ちゃん。」

「…好きだ。」

「…ウン、私も銀ちゃんが好きだヨ。」

背中を撫でる手は相変わらず優しくて。

「好きなんだ…」

「…ウン、知ってるヨ。だから銀ちゃん、ずっと悩んでくれてたんだよネ?…私の為に。」

「!」

驚いて顔を上げると、神楽は悲しそうに俯いて「ゴメンネ。」と言った。
 
「…私、銀ちゃんが好きっていう気持ちが恋だってずっと信じて疑わなかったアル。」

神楽は静かに話し始めた。

「だけど、銀ちゃんが私のこと避けるようになって…その時になって気づいたネ、今までの私の銀ちゃんが好きだって気持ちは…ただの憧れだったんだって。」

そう言うと、神楽は悲しそうに微笑んだ。

「…銀ちゃんに避けられてるのがこんなにも苦しいのは、私が銀ちゃんのこと本当に好きになったからなんだ、って。」

「………。」

「…ゴメンネ、銀ちゃん。私、銀ちゃんがずっと何かに苦しんでるのに気づいてたのに。なのに、それが自分のせいだって分かって…怖くて本当の事言えなかったアル。」

「かぐ…」

「これじゃあ私、銀ちゃんに嫌われちゃっても仕方がな……んぅっ!?」

その言葉の続きは、唇で塞いで無理やり呑み込ませた。

嫌いになど、なれる訳がない。

こんなにも愛しいと思ったのは、今までも、そしてこれからも、神楽ただ一人だけで。

「…神楽、悪いのは俺の方だよ。俺ァあの時、お前の想いに気づいてた。なのに、気づかないフリしてお前を受け入れて…お前を他の誰にも渡したくなかったんだ。」

「銀ちゃん…」

「…だからさ、今ここでちゃんと言わせてくれ。」

もう一度最初からやり直せばいい。

すれ違っていた時間を取り戻す為に。

これからの時間を一緒に過ごしていく為に。

きっと、俺達は言葉が足りなかったんだ。

だから。

「ただ一人の男として、俺は…」

だから、今度はちゃんと伝えるよ。


「お前が好きだ。」




end.
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