story

□そんな愛しくて幸せな日
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もうほとんど夕日が沈んで、辺りに人影がなくなった公園。

そのベンチに一人膝を抱えて座りながら、神楽は今日何度目になるかもわからないため息をついた。

「ハァ…」

(もうそろそろ帰らないと銀ちゃん達が心配するアル…)

そう思うのに何故か体がその場から動こうとしない。

さっきからあの光景が目に焼きついて離れない。

「………。」

神楽は俯いて膝を抱えこんでいる腕の力をギュッと強めた。

夕方、いつものように公園で遊んで万事屋に帰る途中、神楽は銀時が女性と一緒にいるのを見かけた。

何てことはない。

ただそれだけだ。

しかもその相手は今回の仕事の依頼人だという事もちゃんと知っている。

それだけの事なのに、銀時がその女性と並んで歩いてる光景を見た途端、胸がきつく締めつけられてその場を逃げるように後にした。

銀時はよく自分でモテないと言うが、そんな事はないと神楽は思う。

確かに普段はだらしなくて、まるでやる気とか感じられない。

だが、いざという時はとても頼りになる存在で、銀時をよく知る者なら皆それをちゃんと理解している。

それに、銀時には何か人を惹きつける力がある。

だから彼の周りにはいつも人が集まってくるのだろう。

そんな銀時の傍にずっといた自分が、彼を好きになったのだってもう必然だったんじゃないかと思う。

最初はただ憧れていたのかもしれない。

その揺るぎない意志の強さや暖かい優しさに。

いくら背伸びをしてみても追いつくことはできなかったけれど。

だから思いきって自分の想いを打ち明けた時、銀時も同じ気持ちでいてくれた事に驚いたし、スゴく嬉しかった。

だけど時々、無性に不安で不安で堪らなくなる。

何がどう不安なのかと聞かれると正直よくわからない。

ただ、銀時と一緒にいると今まで知らなかった感情や想いに気づいて戸惑ってしまう。

「……不安アル。」

額を膝にくっつけたまま小さく呟いた。

「何が?」

「!?」

頭上から降ってきた声に驚いて顔を上げると、いつの間にか銀時が目の前に立っていた。

「…っ銀ちゃん…」

あまりに突然のことで神楽はそれ以上言葉が出てこなかった。

「お前の帰りが遅いから迎えに来たんだけど…何かあったのか?」

そう言って屈んで神楽の顔を除き込む。

「…神楽?」

「!」

名前を呼ばれハッとして立ち上がると、神楽はその場から逃げようとした。

だが、すぐに銀時に腕を掴まれてベンチに引き戻されてしまう。

「…何で逃げんの?」

再び顔を覗き込まれ思わず目を逸らす。

「…べっ、別に逃げてなんかないし何もないアル!…それより放してヨ、銀ちゃん。」

自分でもこんなの可愛くないと思う。

もっと素直になれたら。

でも。

「ダーメ。ちゃんと俺の目を見て話すまで放してやんねェ。で、神楽ちゃんは何が不安なの?」

「………っ」

言えるハズがない。

きっと笑われるか、呆れられてしまう。

ただ、銀時が自分以外の女性と一緒にいるのを見ただけ。

それだけだ。

何故それだけでこんなにも不安になるのだろう。

自分が子供だから?

銀時が大人だから?

(わからないネ…)

何も言わず俯いたままの神楽に目線を合わせるように、銀時は地面に膝を付いた。

「神楽。」

「!」

銀時の低くて優しい声に少し安心し、神楽はおずおずと口を開いた。

「……っあのネ…」

「ウン。」

「今日、銀ちゃんが…女の人と一緒に歩いてるの見て……何でもないってわかってるのにっ…」

「ウン。」

「わかってるのに…っ何かスゴく胸が痛くなって…」

「…そっか。」

そう言って銀時は神楽の頭を優しく撫でる。

「…ゴメンネ。銀ちゃんにこんな事言ってもどうしようもないのに…。私が勝手に不安になってるだけなのに…」

ギュッとチャイナ服の裾を握りしめる。

「あのさ、神楽。これだけはちゃんと分かっててほしいんだけど。」

顔を上げるとそこには優しい目をして自分を見つめる銀時の顔。

「…これから先、またこんな風にお前を不安にさせてしまうかもしれねェ。でも…」

きっとずっとその言葉は忘れない。

「俺はお前のことがずっと好きだから。それだけは絶対に変わらねェから。」

「っ銀ちゃん…!」

「これが証拠。」

銀時はニッと笑うと、神楽の左手の薬指にそっと口付けて体を抱き寄せた。

(あったかいネ…)

銀時に抱き締められながら、神楽はいつの間にか不安が消えてしまっているのに気づいた。

(…そうだったアル。いつも銀ちゃんはどんなに先に行っても私を待っててくれて…)

無理に背伸びをしなくてもいいんだと。

(いつも私を優しく包んでくれて…)

ありのままの自分を受け入れてくれた。

(だから私も…)

今一番伝えたい気持ちをありのままに。

広い背中にそっと腕を回すと、それに応えるように抱き締める力が少し強くなる。

それだけでこんなにも愛しいと思う。

「……銀ちゃん。」

「…ん?」

「大好き。」

それは、ありふれた言葉かもしれないけれど。

偽りのない確かな気持ちだから。

「………知ってる。」

少し照れたような声でそう言うと、銀時は両手で神楽の頬を包んで、その小さな桜色の唇に口付けを落とした。




end. 
 

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