story

□鳴かぬ蛍が身を焦がす
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声に出して言えない。

言葉にできない。

それがこんなにも苦しいなんて。


「私達…本当に付き合ってるアルか?」

それは、何度も何度も心の中で先生に問いかけていた言葉。

実際口にしてみると、私の声は情けないくらいに震えていた。

「……何でそんな事聞くんだ?」

「だって……」

「………。」

私と先生は恋人同士だ。

想いが通じあったのは1ヶ月前。

ずっと好きだった先生にやっとの思いで告白した。

先生が「俺も好きだ」って言ってくれた時はすごく嬉しかった。

だけど、あれから私達の関係はほとんど変わっていない。

その理由は明らか。

私達は"教師"と"生徒"で。

学校でしか会うことができないのに、その学校では私達は"教師"と"生徒"でいなければならない。

わかってはいたけど。

頭ではわかってるつもりでも、少しずつ不安と苛立ちばかりが募っていった。

「だって、せっかく恋人同士になれたのに……これじゃ付き合う前と何も変わらないネ。」

「……しょうがねェだろ。ただでさえ今は、教師と生徒がデキてるとか変な噂が流れてんだし…」

「…そんなのほっとけばいいアル。」

「そういう訳にもいかねェだろ。」

先生はフーッとため息と共にタバコの煙を吐き出す。

(……これ以上言っても先生を困らせるだけネ。)

そうわかってるのに、それでもどこか納得できない自分がいて。

「だけどっ……」

「じゃあ、もうやめるか。」

低い、静かな声が私の言葉を遮った。

「……え?」

思いがけない言葉に、体が凍りついたみたいに動かなくなる。

(…今…なんて……?)

「もう…終わりにするか。」

「!?」

淡々とそう告げた先生の言葉が頭の中に響いた。

「……っ何で…そんな事言うアルか…!?」

「………。」

先生は何も答えずに私に背を向けた。

それが何だか先生に拒絶された様な気がして。

伸ばしかけた腕を力なく下ろし、ギュッと掌を握りしめる。

「……っもう…いいアル。」

それ以上その場にいられなくなって、私は逃げるように準備室を飛び出した。
 


あれから3日。

明日から夏休みが始まると言うのに私の気持ちは重く沈んでいた。

今はちょうど終業式の真っ最中。

蒸し風呂状態の体育館の中、ダラダラと長ったらしい校長の話を右から左へと聞き流しながら、暑さでボーッとした頭で考えていた。

――そう、先生の事を。

この3日間、何をやっていても考えるのは先生の事ばかり。

自分からもういいと逃げ出しておいて、あれから何も言ってこない先生に苛立ちと不安を感じ。

自分から気まずくて先生を避けておいて、先生と話ができない事に寂しさを感じ。

我ながら何て自分勝手なんだろう。

これじゃあ本当に先生に愛想を尽かれてしまう。

ううん、もしかしたらもうとっくに。

ハァと今日何度目かのため息をつく。

ああ、何だか気分が悪くなってきた。

頭もクラクラして周りが霞んで見える。

(あ、ヤバイアル…)

そう思った次の瞬間、目の前が真っ白になった。

  
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