story

□そんな彼らのプロローグ
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「…要するによォ」

ざっと神楽の話を聞き、高杉は新しいタバコを取り出して火をつける。

「銀八がその教育実習生の女に優しくしてんのが気にくわねェんだろ?」

「……いつもは真面目に授業することなんてほとんどないのに、あの実習生が来てから何か銀ちゃん急に偉そうに教師振り出したアル。」

そこは教師なんだから良いんじゃないのかと高杉は内心思ったが、そのまま黙って話の続きに耳を傾ける。

「それに大学の時の後輩かなんか知らないけど、毎回授業の度に聞きたくもない大学の思い出話を聞かされるネ。」

「そいつはウゼェな…」

「ダロ?」

そう言って唇を尖らせると、神楽は少しだけ俯いてボソリと呟いた。

「……休み時間もずっと2人で一緒にいるから、最近あまり銀ちゃんとしゃべってないアル。」

「…まぁ、アイツも一応教師だから、実習生に教える事とかいろいろあんじゃねーのか?」

「そうなのかもしれないけど…」

スカートの裾がギュッとキツく握りしめられる。

「…でも、楽しそうな2人を見てたら…何か胸が苦しくなるネ…」

最後は消え入りそうな声でそう言うと、神楽は俯いたまま黙りこんでしまった。 

不意にガラガラと保健室の戸が開かれる。

2人が入口に目を向けると、そこには銀八が眉間にシワを寄せながら立っていた。

「…神楽ちゃん、こんなトコで何してんの?」

「……銀ちゃん」

「俺の授業をサボるたァ良い度胸してんじゃねェかコノヤロー。」

明らかに不機嫌な様子の銀八に、神楽は俯いて目を逸らした。

「………。」

「オイコラ、今度は無視ですか?黙ってねェで何とか言ったらどう…」

「コイツは別にサボってた訳じゃねェよ。」

「…あん?じゃあ何で…」

高杉の言葉に銀八は片眉を上げながら振り向く。

「そりゃオメー、保健室にいるって事は具合が悪いからに決まってんだろ。」

なァ?と高杉が神楽に目を向ける。

神楽は顔を上げて高杉の目をジッと見つめると、コクンと小さく頷いた。

もちろん、本当はどこも悪くなんてないのだが。

敢えて言うなら機嫌が悪いことぐらいか。

高杉は銀八にバレないよう僅かに口の端を上げた。

「それに、お前の方こそ授業中に実習生をほったらかしにして何してんだ?」

「…あ?それはオメー…」

言い淀む銀八に、高杉がさらに続ける。

「わざわざコイツ一人を探しにきたってのか?」

高杉の言葉に銀八はチラリと神楽を見ると、頭をボリボリ掻きながらきまり悪そうに答えた。

「…チッ、そうだよ。悪いかよ…」 

「銀ちゃん…」

神楽は目を丸くして銀八を見上げた。

「…お前、最近何か変だったし。」

「…え?」

「元気ないっつーか…授業中とかミョーに静かだったろ?」

(銀ちゃん、気づいてたアルか…)

「ってか、具合悪かったんならちゃんとそう言えよな…」

ハァと小さくため息をつきながら、銀八は神楽の額を小突いた。

その目は今まで見たことないくらいに優しくて。

小突かれた額に手をやって、神楽は泣きそうになるのをグッと堪えた。

「…大丈夫アル。」

「ん?」

「もう私大丈夫アル、銀ちゃん。心配かけてゴメンネ。具合良くなったから教室に戻るアル。」

そう言ってベッドから降りると、神楽はニコリと笑った。

「高杉も…アリガトネ。」

「…ああ。」

「それから…」

「ん?」

神楽は高杉に近寄っていきその耳元に口を寄せると、銀八には聞こえないように小さく囁いた。

「打倒、教育実習生!!アルヨ。」

神楽の言葉に高杉は一瞬呆気にとられたが、すぐにニヤリと口元に笑みを浮かべる。

「…まぁ、頑張れや。話くらいならいつでも聞いてやるよ。」

「ウン、また来るアル。」

そう笑顔で返す神楽の後ろには、こちらを睨む銀八の姿があった。

(ククッ、本当にわかりやすい奴だな…) 

神楽と銀八が保健室を出ていった後、高杉は先ほどの神楽の言葉を思い出していた。

『…オマエ、好きで好きでどうしようもない人っているカ?』

いつも毒舌ばかり言っていた神楽の口からまさかあんな言葉が聞けるとは。

しかも、その好きで好きでどうしようもない人というのが。

「何でよりによってあの天パなんだか…」

自分と神楽のやり取りを眉間にシワを寄せながら黙って見ていた銀八の姿が頭に浮かぶ。

保健室を出ていく時も、スッキリとした様子の神楽とは反対に、銀八は一人釈然としていないようだった。

あの様子だと、おそらくまだ自覚さえしていないのだろう。

そして。

『打倒、教育実習生!!アルヨ。』

そう宣言した少女は果たしてこれからどうするつもりなのか。

どうやらしばらくは退屈せずに済みそうだ。

「ククッ、おもしれェ…」

短くなったタバコを灰皿に押し付けると、高杉は小さく呟いた。




end.
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