story

□彼と彼女の恋模様
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神楽の強烈な右ストレートによって、銀八は大きな音を立ててソファーごと後ろに倒れた。

「せっ、先生!!」

慌てて新八が割って入る。

「…ちょっ、神楽ちゃん落ち着いて!ねっ!?」

「ってーな!何すんだ、神楽!!」

腫れた頬を押さえながら銀八が起き上がって怒鳴る。

「銀ちゃんが何もわかってないからアル!」

「あぁ?俺が何をわかってねーってんだ!?」

「さっきから何回も言ってるダロ!私が日本にいたいのは……銀ちゃんと離れたくないからヨ!!」

神楽の声は今にも泣き出しそうなくらい震えていた。

「だから、お前それは…」

「…銀ちゃんの事が好きだからっ!!」

「!?」

「…っだから離れたくないって言ってるのに……!」

新八は神楽の分厚いメガネのレンズ越しにはっきりと涙を見た。

「神楽ちゃん…」

「…なのにっ…何で全然気づかないアルか!?銀ちゃんのバカァァァ!!」

叫び声と共に、準備室の戸を壊す勢いで神楽はバタバタと飛び出していってしまった。

「神楽ちゃんっ!!…ちょっ、先生!早く追いかけてくださいよ!」

「………。」

神楽を追いかけようと新八が促すも、銀八は黙って背を向けて一向に動こうとはしない。

焦れた新八は銀八の肩を掴む。

「聞いてるんですか、先せ…い……って、へっ!?」

振り向いた銀八の顔に、一瞬新八は呆気にとられた。

「…せっ、先生!?」

「…うるせェな、見んじゃねーよ…」

弱々しくそう言いながら片手で自分の顔を押さえつけた銀八は、耳まで真っ赤に染まっていた。

その様子を見て、新八は思わず吹き出しそうになるのを必死で堪える。

「先生まさか…神楽ちゃんの気持ち、本当に気づいてなかったんですか?」

「……オメー、知ってたのかよ?」

「何となくですけど…ってか、意外ですね。僕、先生はとっくに気づいてると思ってましたよ。と言うよりも、僕は先生も神楽ちゃんのこと好きなんだなって思ってたんですけど。」

「ハァ?何でだよ?」

訝しげに新八を見やる。

「だって先生って何だかんだ言っても神楽ちゃんには甘いし、神楽ちゃんのことになると結構過保護になるって言うか…」

「………!」

ドサッとソファーに腰を下ろして考え込んでしまった銀八に新八は苦笑した。

「もしかして自覚なかったんですか?」

「……つーか」

「?」

「お前、何か今スゲー事サラッと言ったけどよォ…仮にも俺は教師だぞ?教師が生徒に恋愛感情持っちゃマズくね?」

明らかに動揺の色が見える銀八に、新八はため息をつく。

「何言ってんスか。こんな時だけ真面目な教師ぶらないでくださいよ。教師だって人間なんだから、好きになってしまったものは仕方ないでしょ?」

「好きってーか…」

「違うんですか?」

「………っ」

新八の真剣な表情に銀八は思わずたじろぐ。

「……あーもうっ!そうだよ!悪ィかよ!?」

「誰も悪いなんて一言も言ってないでしょ。てゆーか、僕は2人の事応援してるんですよ?」

「なっ…新八、お前…」

驚いて目を見開いた銀八に、新八はフッと微笑んだ。

「よく2人が仲良さそうに一緒にいたり話してるのを見てたから、何か応援したくなっちゃって……それに卒業まで本当あと少しですしね。」

そう言って笑った新八の表情が少し寂しそうで、銀八は何も言えなくなった。

「………。」

「まぁ、でもまずは神楽ちゃんに先生の気持ちをちゃんと伝えないと何も始まらないですけどねー。」

新八は面白そうにニヤリと笑みを浮かべながら銀八を見やる。

「…伝えるって、何て言やいいんだよ?」

「知りませんよ。そんなの自分で考えて下さい。」

「…大体、今更どんな顔して話せっつーんだよ。」

ブツブツ呟く銀八に、呆れたようにため息をつく。

「ハァ…そのまんまの情けない顔見せてあげたらいいんじゃないですか?」

「情けないって…新八、てめェ…」

「全く…いい年した大人のクセにどんな顔したらいいかわからないなんて、何を乙女みたいなこと言ってるんですか…」

ヤレヤレと肩をすくめる新八に、銀八は青筋をたてながらも何も言い返すことができない。

「ってか、いつまでこうしてる気ですか。資料は僕が何とかしとくんで…ホラ、さっさと神楽ちゃんのとこに行ってあげてください。」

廊下へと銀八の背中を押して促す。

「…悪ィ、あと頼む…」

珍しく申し訳なさそうな表情の銀八に、新八は困ったような笑みを向けた。

「気にしないで下さい。それよりも、ちゃんと神楽ちゃんに言うんですよ。」

「わかってらァ。ってか、これじゃあどっちが教師かわかりゃしねェな。」

銀八はそう言って苦笑すると、神楽を探しに準備室を出ていった。

小さくなっていく銀八の後ろ姿を見送りながら、残された新八は一人小さく笑って呟いた。


「あの2人、上手くいくといいんだけど…」




end.   
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