story

□青春サボタージュ
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雲一つない青空が広がるある日の午後。

いつもなら準備室に閉じこもっているこの男も、春の陽気に誘われるように屋上へと続く階段を上がっていた。

重い鉄のドアを開けて屋上に出ると、外の眩しさに思わず目を細める。

「あっ、銀ちゃん。」

「ん?」

不意に自分の名前を呼ばれて声の聞こえてきた方へと目を向けると、そこには神楽が座っていた。

「…ハァ、お前またこんなとこでサボってやがんのか…」

ため息と共にタバコの煙を吐き出しながら神楽の方へと歩いていく。

「銀ちゃんだってサボってるダロ?」

そう言って神楽は悪戯っぽい笑みを浮かべて銀八を見上げた。

「俺はこの時間は授業がないの。お前と一緒にすんなよ。」

コツンと頭を小突いて自分も神楽の隣に腰かける。

「だって弁当食べたら眠くなってきたネ。という訳で私は今から昼寝タイムアル。」

そう言って銀八の膝に頭を乗せてゴロンと寝転がる。

「…ったく、しょうがねェな。」

銀八は苦笑しながら白い煙を吐き出すと、タバコの火を揉み消した。

心地よい風が吹き、神楽の前髪をサラサラとなびかせる。

暖かい陽気に銀八もウトウトし始めるが、ふと太陽が真上にある事を思い出して急いで自分の着ている白衣を脱いだ。

「ホラ、神楽。陽が当たらねェようにこれ上に掛けとけ…」

不意に目に飛び込んできたパタパタと風に揺れるスカート。

そして、その下から伸びる白い足。

思わずその光景に釘付けになり、銀八は目を見開いたまま固まってしまう。

ハッと気がついて慌ててそこから目を逸らすと、下からジッと自分を見上げている神楽とバッチリ目があった。

「………。」

「………。」

お互い無言のまま見つめあうこと十数秒。

「…銀ちゃん。」

「…何だよ。」

「………スケベ。」

「………。」

銀八は無言のままバサッと白衣を神楽に被せた。

「………。」

チラリと下に目を向けると、神楽が白衣から顔だけを覗かせてニヤニヤした目で見上げてくる。

銀八はだんだんと顔が熱くなっていくのを感じ、思わず手で神楽の目を覆った。

「ちょっ、何するネ!?手を退けるヨロシ!!見えないアル!」

「あーもう、うるせェな!いいからお前はさっさと寝ろっつーの!!」

ジタバタと暴れる神楽を片手で押さえながら、銀八はもう片方の手で真っ赤になった自分の顔を覆った。

(あーもう、俺もガキじゃねェんだからよ…)

しばらくしてスヤスヤと寝息をたて始めた神楽を見下ろし、銀八はホッと息をついた。

いい年した大人が年下の少女にこうも振り回されるとは。

「…ったく、気持ち良さそうな顔して寝やがって……こっちは生殺しだってーの。」

すっかり安心しきって自分の膝で眠る少女を見下ろし、銀八は小さくため息をついた。

(……まぁでも、もう少しこのままでいるのも悪くねェか…)

そう思った矢先に。


―― キーンコーンカーンコーン


5限目終了のチャイムが鳴り響く。

何とも言えないタイミングの悪さに銀八は小さくため息をつくと、神楽を起こさない様にそっと体を動かそうとした。

が、ふと神楽の小さな手が自分のワイシャツをしっかりと握りしめてるのに気づく。

「………。」

思わずその寝顔にそっと触れると、神楽もそれに応えるかの様に頬をすり寄せてきた。

「…あー…ったくもう…」

銀八は堪らなくなって神楽の体を抱き寄せると、額にそっと口付けを落とした。

そうしてもう一度幸せそうに眠る少女の顔を見つめると、今日何度目になるかもわからないため息をつきながら小さく呟いた。

「…ハァ、6限目は自習にすっか。」




end.
 

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