story
□kiss
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「もう銀ちゃんとはチューしないネ。」
起きがけに突きつけられた衝撃的な一言。
「え…」
寝起きで鈍っている頭を瞬時に覚醒させるには十分なその言葉は、俺にとって死活問題だった。
言葉を発する間も与えてくれずに和室を出ていった神楽の表情は、笑顔のハズなのに確かに怒りの二文字が浮かんでいて。
………俺、何かしたっけ?
慌てて思考を巡らせてみても、思い当たる節がない。
昨日の晩は長谷川さんに誘われて飲みに出かけて。
行きつけの飲み屋に入っていつも通り長谷川さんと酒を飲みながら、最近仕事はどうだとか、あそこのパチンコはよく当たるらしいとか、確かそんな他愛もない話をしてたのは覚えている。
だが、そこから先の記憶が全くと言っていいほどない。
そもそもどうやって万事屋に帰ってきたのかもわからない。
目を覚ましたらいつも通り見慣れた天井が視界に入って、次いでこれまた見慣れた朱色の頭が入ってきて。
何だよ、また俺の布団に潜り込んできたのか可愛い奴め、なんてボンヤリ思っていたら、どうやらすでに起きていたらしい神楽と目が合った。
そうして見つめあうこと数秒。
ニコリと微笑み、ゆっくりと開かれた口から出てきたのは、朝の挨拶どころかとんでもない爆弾発言だった。
「……マジでか。」
呟いた言葉が虚しく部屋に響いた。