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□嗚呼、性少年に幸あれ
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「…銀ちゃん、あの、やっぱりちょっと恥ずかしいから…私後ろ向いててもいいアルか?」
少し潤んだ青い瞳に、真っ赤に染まった頬。
そして艶めいた赤い唇。
思わずゴクリと喉が鳴った。
「…あ、ああ。」
ゆっくりと躊躇いがちに向けられた小さな背中。
はやる気持ちを抑え、俺は後ろからそっと神楽の身体を抱きしめた。
瞬間、ピクリと細い肩が揺れた。
そもそも今何でこんなおいしい展開になっているかというと、事の始まりは数時間前まで遡る。
「銀時、今日は貴様ツイてるぞ。」
朝、席に着くなり前の席のヅラが見せてきたのは『月刊エリザベス』なる怪しげな雑誌。
ヅラがそれを毎月欠かさず購入していて、いつも気持ち悪いくらい熱心に読んでいたのは知っていたが、どういった類の雑誌なのかは謎だった。
まぁ、正直中身なんて露ほども興味はなかったが。
「…あ?何がだよ?」
面倒臭いと思いながらも、ヅラが得意げに指差すページに目を落とすと、そこにはどうやら今月の占いが載っているらしかった。
「今日の運勢の一位は天秤座だぞ!ホラ、ここ読んでみろ!」
「ハァ…たかが占いではしゃぐんじゃねェよ。お前は乙女ですかコノヤロー。」
そう呆れながらも、一位と聞いて悪い気はしない。
俺は仕方なしにという風を装って、天秤座の記事に目を通した。
『恋愛運★★★★★ 恋人がいる人は相手におねだりしてみよう。普段は無理なお願いも今日は聞いてくれるかも☆』
「どうだ銀時?」
「……ふーん、おねだりねェ…つーか、コレほんとに当たんの?」
こんな占いを本気にするほど俺はバカじゃないが。
「当然だろう。だってエリザベスだぞ?」
「………。」
ドヤ顔でそう訳の分からない答えを返してくる辺り、やっぱりコイツは少し…イヤ、だいぶ変わっているんだろう。
「…まあ、こういうのは当たれば儲けもんってなモンだしな。」
そんなやり取りをした数時間後の昼休み。
俺はいつものように屋上で神楽と昼飯を食って、他愛もない話をしながらのんびりと過ごしていた。
暖かい陽気にウトウトしていると、ふと隣に座っていた神楽が甘えるように俺の方へ寄りかかってきた。
「…………。」
チラリと視線を斜め下に向ければ、上目遣いでこちらを窺う青い目と視線がぶつかる。
すぐに逸らされたそれをもう一度自分に向けたくて神楽の両肩を掴んで顔を覗き込むと、頬を薄く染めたその表情は、満更でもなくむしろ期待しているようにも見えた。
そう自分に都合良く解釈すると、俺は吸い寄せられるように神楽の唇に口付けた。
「ん…」
そのまま抱き寄せて腕の中に閉じ込めると、ふと脳裏に今朝の占い記事が浮かんだ。
『恋人がいる人は相手におねだりしてみよう。普段は無理なお願いもーーー』
…イヤイヤ、いくら何でもあんな信憑性のない占いを信じちゃダメだろ。
そう思いつつも、俺の頭にはすでにもうちゃっかり神楽へのおねだりが浮かび上がっている。
柔らかい肌の感触に、かすかなシャンプーの香りーー
「……っ…」
…ああもう、こうなりゃヤケだ。
この際占いでも何でも信じてやる。
だってこんな状況で我慢なんて出来るはずがない。
というか、男子高校生がチューの1つや2つで満足出来るなんて思ってもらっちゃ困る。
それどころか『どうやったらその先へ進めるか』そんなことばかり日々考えているのだから。
「…なァ、神楽…」
「何?」
「あの、さ…」
「うん?」
歯切れの悪い俺に、神楽は小首を傾げながら真っ直ぐな目で見上げくる。
あー、可愛いなオイ…じゃなくてホラ、俺!早く言え!
「えっと…その、だな…お前にお願いっつーか頼みっつーか…」
「頼み?何アルか?」
「……んだけど。」
「え?ゴメン、もっかい言って。よく聞こえなかったネ。」
「…っだから、その…」
何やってんだ、もっと大きい声で言わねェと。
大丈夫だ。お前は天秤座だぞ。
言え、言うんだ銀時!
「胸、触らせてほしいんだけど…」