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□テレパシー会得
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「ねェ、銀ちゃん。もし超能力が1つだけ使えるとしたらどんな能力が欲しいアルか?」
放課後。
いつものように銀八のいる準備室にやって来た神楽は、いつものように備え付けのソファーに腰を下ろし、いつものようにテーブルの上に宿題をひろげると、ふと銀八に問いかけた。
「あー?超能力ー?」
窓際のデスクから間延びした声が返ってくる。
珍しく真面目にデスクに向かっていた銀八は、作業していた手を止めてキャスター付きの椅子ごとクルリと振り返った。
「超能力ってアレだろ、念力だとか透視だとかっていう…」
「銀ちゃんは透視か?透視ダロ?私の服を透視して下着を盗み見るつもりアルな、この変態!」
からかうようにそう言うと、神楽はわざとらしく両手で胸を隠す仕草をした。
「オイオイ、人聞きの悪いこと言うな。つーか、透視なんかいらねェよ。」
「何でアルか?」
「お前の下着見るのに透視なんか必要ねェ。んな面倒くせェことするぐらいなら直接脱がす。」
拳をグッと握りしめてそう主張する銀八に、神楽は呆れた視線を送る。
「…そうだったアル。銀ちゃんはそういう奴だったネ。」
「という訳でェ、神楽ちゃん」
「!」
「今から先生がそれを実践してみようと思います〜」
そう言っていそいそと制服を脱がそうとする銀八の手がスカーフに触れたのと、神楽のシャープペンシルが銀八の顔を掠めて壁に突き刺さったのは全くの同時だった。
「何か言ったアルか?」
「……いっ、言ってませんん!!」
「…それでお前はどうなんだ?」
銀八は神楽の向かいに腰を降ろすと、ポケットからタバコを取り出して火をつけた。
「え、何が?」
「何がって…超能力だよ、超能力。お前が言い出したんじゃねェか。」
白い煙を吐き出しながら呆れたように言うと、神楽がポンと手を打った。
「あっ、そうだったネ。」
「ったく、自分で聞いといて忘れんなよ。つーか、そもそも何で超能力なんだ?お前エスパーにでもなりたいの?」
「Sでパーなのは銀ちゃんダロ。一緒にすんなヨ。」
さも心外だとでもいうように、神楽は頬を膨らませて腕を組んだ。
「ちげェェよ!!エスパーっていうのはだなァ…」
「私、テレパシー使えるようになりたいネ!」
「…って、人の話聞けよ!ったく…それに何だよ、テレパシーって。もっと便利な能力他にいくらでもあんだろ。」
例えば、と銀八は指折り数えていく。
「透視とか透視とか。あとそれから透視とかもあるな、ウン。」
「……やっぱり透視能力が欲しいんじゃねーカ。」
「イ、イヤ、今のはほんの軽い冗談だよ、冗談。」
神楽の冷めた視線に、銀八は引きつった笑みを浮かべた。
「…で、でもよォ、テレパシーなんてあんまり役に立たなくね?何でそんなモンが欲しいの?」
そう問えば、だって、と神楽は少し恥ずかしそうに俯いて口を開く。
「…思ったんだもん。」
「ん?」
「もしテレパシーが使えたら…そしたらこんな風に内緒でコソコソ会わなくても、いつでも銀ちゃんと話せるのになって…」
そう思ったんだもん、と最後は消え入りそうな声で小さく呟いた。
「………。」
「銀ちゃん?」
「…あー、イヤ…」
短くなったタバコを灰皿に押しつけながら、銀八は思わず神楽から目を逸らす。
(何コイツ、可愛いすぎるんだけど…)
普段あれだけ騒がしくて毒舌な彼女の口から出てきたのは、何ともしおらしい言葉で。
(…てか、不意打ちだろ。)
不覚にも、年下でしかも自分の教え子である少女にときめいてしまった。
「銀ちゃん?」
もう一度名前を呼ばれ、慌ててそれを誤魔化すように咳払いして。
そうして目の前の朱色のおだんご頭をグシャグシャと撫でてやると、神楽は嬉しそうに青い目を細めた。
その様子に銀八の口元も自然と緩む。
(あーもう、何でいちいちこんな可愛いんだよ。)