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□泣き落とし
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結局、いつも最後には首を縦に振ってしまうのだ。

潤んだ目、薄く色付いた頬、小さな口から覗く赤い舌。

それは計算なのか、はたまた天然なのか。

情けないが、今のところは俺にその答えを出す余裕なんて一切ない。

ただ、神楽に泣かれると弱い。

惚れた欲目とでもいうのだろうか、我が儘でさえ可愛く思えてしまう。

断るという選択肢なんて容易く思考の彼方に飛んでいってしまう。

だけど、今回だけは。
 
「銀ちゃん…」

今にも泣きそうなその顔には、不安という2文字がハッキリと浮かんでいる。

「…やっぱり私のこと、好きじゃないアルか?」

「そんな訳ねェだろ。」

「じゃあ、何でヨ?」

…イヤ、何でって聞かれても困るんだけど。

思わずため息が零れる。

「何で銀ちゃん、私にチューしてくれないネ?」

勘弁してくれ。

潤んだ大きな目に俺の顔が映る。

泣きたいのはこっちだというのに。

触れたくない訳ではない。

イヤ、むしろ今すぐにでも神楽に触れたい。

だけど、今までそうせずにギリギリのところで踏み止まっていたのは、自分を抑えきれる自信がなかったから。

「あのね、神楽ちゃん…」

バレないように小さくため息をついて隣に座る神楽に向き直ると、青い目が不安げに揺れた。

「…銀さんがチューしないのは、別にお前のことが嫌いだからとかじゃないの。好きだからできないの。」

「…そんなの変アル。好きだったらチューしたくなるんじゃないの?」

「うん、だからね…」

「それとも銀ちゃん…私とはチューしたくないアルか?」

俯いた青い目から、たちまち涙が溢れてくる。

「えっ!?ちょっ、ストップ!!待てって!神楽ちゃん、それは反則っ!!」

慌てて距離をとろうとするも、いつの間にか小さな手に着流しをギュッと握りしめられていて離れられない。

「銀ちゃん…」

涙に濡れた青い目にジッと見つめられる。

ヤバい。

この状況はかなりヤバい。

上気した頬や桜色の唇が嫌でも目に入る。

思わずゴクリと喉が鳴った。

まさに据え膳だ。

理性を総動員して何とか堪えているものの、これではいつ神楽に襲いかかってしまうかわからない。

ああ、本当に勘弁してくれ。

確かに俺も悪いかもしれねェけど。

チューだってスッゲーしたいけど。

でもこの仕打ちはないんじゃないの!?

今まで我慢してきた俺の苦労とかが水の泡だよ、コレ。

「我慢なんかしなくていいネ。」

イヤイヤ、そうは言っても銀さん、チューだけで終わらせる自信がないから……って、んん?

「……ア、アレ?もしかして俺、声に出してた…?」

「ウン。」

「…どの辺から?」

「勘弁してくれ、ってトコから。」

「そ、そう…」

「………。」

「………。」

「銀ちゃん。」

「…何?」

ああ、本当俺ってバカ。

銀ちゃんなんて嫌い!とか言われるんだろうか。

神楽に嫌われるくらいなら、いっそチュー以上の事なんてできなくても構わない。

だから、頼むから。


「…チューだけで終わらせないでいいアルヨ?」


…ごめんなさい。

俺、嘘つきました。

チュー以上の事できなくてもいいなんて、そんなの真っ赤な嘘です。




end.
 

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