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□幸せの定義
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「神楽ァ。」
外から帰ってくると気だるげな声に呼び止められた。
和室を覗いてみると、銀ちゃんがコタツに入ってテレビを見ていて。
視線はテレビに向けたままでチョイチョイと私を手招きする。
「何アルか、銀ちゃん?」
そばまで行くとグイッと腕を引っ張られ、私の体はそのまますっぽりと銀ちゃんの腕の中。
見上げると少し怒ったような顔の銀ちゃんと目が合った。
「銀ちゃん?」
「…オメェ、外出る時はちゃんと手袋してけっていつも言ってんだろ。こんなに冷たくなってんじゃねェか。」
そう言って私の手を包む銀ちゃんの手は大きくて暖かい。
「忘れたアル。」
銀ちゃんにこうしてもらいたくて、いつもわざと手袋を忘れていくのは内緒。
だけど、きっと銀ちゃんは気づいてるんだろう。
「…ったく、しょうがねェな。」
そう言って少し困ったように笑う銀ちゃんが堪らなく愛おしいと思った。
『私と銀ちゃんさえいれば地球は回るネ。』
いつだったかそんな事を言っていたのをふと思い出す。
思えばその頃から、ううん、それよりももっと前から。
ひょっとしたら、初めて出会った時からかもしれない。
いつだって私の中心は銀ちゃんだった。
例えば、新八に内緒でおつかいのお釣りでアイスを買って、2人して食べながら手を繋いで帰ったこと。
例えば、遊ぶのに夢中で帰るのが遅くなった時、ブツブツ文句を言いながらも銀ちゃんが迎えにきてくれたこと。
例えば、寒い夜にこっそりと銀ちゃんの布団に潜り込むと、半分寝ぼけながらも私が布団から出ないようにと抱き寄せてくれたこと。
そんなありふれた日常。
だけど、そんな日常が泣きたくなるくらい幸せで。
いつだってその真ん中には銀ちゃんがいた。
コタツに入って2人でテレビを見たり、たわいもない話をしたり。
そんな穏やかに時間が流れていく中で、私はふと思った。
「ねェ、銀ちゃん…」
「んー?」
「……や、やっぱりいいアル。」
「何だよ、言いかけて途中でやめんなって。何?」
前髪を優しく撫でながら顔を覗き込んでくる。
「…ウウン、ただネ…」
「ただ?」
こうして銀ちゃんと一緒にいるだけで。
「今、スゴく幸せだなって思ったアル。」
言ってすぐに何だか恥ずかしくなって、慌ててコタツ布団に顔をうずめた。
だけど、後ろから聞こえてきたのは銀ちゃんの低くて優しい声。
「……俺も。」
腰にまわされた腕にギュッと力が込められる。
「なぁ、神楽…こっち向いて?」
耳元で囁かれるだけで、体中が熱くなって鼓動も速くなる。
振り向いた私に銀ちゃんが額へ、まぶたへ、頬へと次々に口付けを落としていく。
その熱も、少し速い鼓動でさえも、今はただただ心地よくて。
銀ちゃんと一緒にいるだけで、こんなにも心が満たされる。
こんなにも、幸せなんだと思う。
このありふれた大切な日常を、これからも銀ちゃんと過ごしていけますように。
心地よい熱に浮かされて何も考えられなくなる前に、そんな事を密かに願った。
end.