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□心、重なるとき
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街の景色が一望できる高層マンションの最上階。
ワンフロアを丸ごと使って作られたプライベートルーム。
その中央に置かれたソファーにゆったりと座って書類に目を通しているのは、歌舞伎町一帯を仕切る中国系マフィア"夜兎"のボス、神楽。
鮮やかな朱色の髪にまばゆいほどの白い肌、大きな青い目は今は長い睫毛によって伏せられている。
ふっくらとした唇に引かれた紅と同じ真っ赤なチャイナドレスを身に纏う彼女は、さながら夜の闇に咲く一輪の赤い花のようだ。
そして、向かいのソファーでそんな彼女の様子を眉間にシワを寄せて窺っているのは、金髪天パで死んだ魚のような目をした男。
名前を坂田金時という。
さっきから自分の方をチラリとも見ようとしない神楽に、金時は少しずつ苛立ちを募らせていた。
「……なぁ。」
「………。」
広い室内に金時の低い声だけが静かに響く。
「…オイ。」
「………。」
「オイ、かぐ…」
「ボスって呼ぶヨロシ。」
ようやく発せられた言葉は、けれども有無を言わせない口調で、金時は小さくため息をついてそれに応えるしかなかった。
「……ボス。」
神楽の機嫌がすこぶる悪い。
しかもその原因はどうやら自分らしい。
新八とは普通に話しているのに、自分が話しかけると決まって無視される。
今もやっと答えてくれたかと思ったらこの有り様で。
だがその不機嫌な理由が全く見当がつかず、金時は困り果てていた。
「…それで?」
ハッとして神楽の方を見ると透き通った青い目と視線がぶつかる。
ようやくその青い目に自分を映してくれた事に安堵するが、その綺麗な青に引き込まれて一瞬自分が何を言おうとしていたのか忘れてしまう。
「……え?」
思わず間抜けな声で聞き返した金時に、神楽は小さくため息をついた。
「……特に用もないみたいだし、私もう忙しいから行くアル。」
そう言ってソファーから立ち上がろうとした神楽の腕を金時は慌てて掴んだ。
「ちょっ、待てって!…なぁ、さっきから何怒ってんの?」
神楽は少し間を置いてから小さく呟いた。
「…自分の胸に聞いてみるヨロシ。」
腕を掴んでいた手を払うと、今度こそ立ち上がって部屋を出ていった神楽の後ろ姿を見送り、金時はドサリとソファーに座り込む。
「ハア…もう何だってんだよ。訳わかんねェ…」
頭をガシガシと掻きながらぼやく金時に、さっきまで2人のやり取りを黙って見ていた新八が苦笑まじりに声を掛けた。
「たぶん…神楽ちゃん、金さんのケガのこと怒ってるんですよ。」
「は?ケガって…」
そこまで言ってハッと気づく。
「お前、まさか神楽にあの事しゃべったのか!?」
「僕は言ってませんよ。でも…」
新八が困ったように眉を下げた。
「どこからか情報が神楽ちゃんに入ってバレちゃったみたいで……で、金さんあの事は神楽ちゃんに内緒にしてたでしょ?だから…」
新八の言葉でようやく神楽の態度に合点がいき、思わず目を瞑って眉間を押さえる。
(ハァ、それでか…)
「あー…ったく、もう…」
舌打ちを一つして腰を上げると、金時はすぐに神楽の後を追って部屋を出ていった。
そんな金時を見送り、残された新八は一人ヤレヤレというように微笑んだ。