title

□最高の殺し文句
2ページ/3ページ


時々、本気でコイツには敵わないって思う。

右肩に感じる心地よい重さ。

規則正しく聞こえてくる小さな寝息。

部屋に2人きり。

ついでに言うと、テレビ画面に映し出されてるのは何ともロマンチックな恋愛映画。

今の自分の状況に軽く眩暈を覚える。

一体、これを俺にどうしろと言うのか。

ってゆーか、そもそも何でこんな事になってんだっけ?


今日は休日で、朝から特にする事もなくて暇を持て余していた。

で、何となく神楽の声を聞きたくなって電話をかけてみた。

そしたら神楽が借りてきたDVDを一緒に観ようっつって。

午後からウチに来るって事になって、俺は急いで部屋を片付けたりして。

そこでふと思い当たった。

アレ、一応これってデートなんじゃね?と。

お互いの家に遊びに行ったりするのは今までだって何度もあったけど。

付き合ってからは初めての事で。

そもそも、彼氏彼女って関係になった今じゃ、家に来るってその言葉さえも何だか甘い響きに聞こえてしまう。

そう考えると急に柄にもなく緊張し始める自分がいた。
  

俺の部屋で神楽と2人きり。

しかもそのDVDってのが前にテレビでスゲー宣伝してた恋愛映画で。

このシチュエーションで何も期待するなって方が無理な話だろ?

映画の内容なんて当然頭に入ってこない。

肩が触れるか触れないかの距離。

それが逆に何とも言えない緊張を煽る。

だけど、チラリと横を盗み見ると当の神楽は船を漕ぎ始めていて。

やっぱりなと苦笑しながらも、内心ではがっかりしたようなホッとしたような複雑な気持ちだった。

コックリコックリと頭を揺らしては、時々ハッとしたように目を開けて。

少しするとまたウトウトし始める。

さっきからそれを繰り返す神楽の様子が面白くて可愛くて。

しばらく映画そっちのけでこっそりと観察していた。

だけど何度目かで急にガクンと神楽の体が傾いたかと思うと、そのまま神楽は俺の肩に体を預けてスヤスヤと寝息をたて始めた。

もうそうなれば観察どころじゃない。

触れ合ってる部分が熱くて。

俺はぎこちなく顔を正面に向けて、意識しないように映画に集中しようとした。

だけどそういう時に限って、映画の中では男女が見つめあって甘い雰囲気を出してて。

チラリともう一度横を見ると、嫌でも長いまつげや桜色の唇が視界に入る。

いつものおだんご頭は今日は下ろしていて、時折フワッとシャンプーの微かな香りが鼻を掠める。

触れてみたい 。

そう思った時にはもう無意識に手が神楽のサラサラの髪に伸びていた。
 
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ