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□ありったけの愛を叫ぶ
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ピピピピ…

1日の始まりを告げて鳴り響く目覚まし時計。

カーテンの隙間からは朝日が射し込んでいる。

その音や光の一切を遮断するかのように布団を頭から被り、先程から一向に起きる気配を見せないのは、この部屋の主である少年、坂田銀時。

目覚まし時計が鳴り止み再び静けさが訪れたその部屋に、よく通る少し高めの声が響いた。

「オハヨー、銀ちゃん!!早く起きないと遅刻するアルヨ!!」

聞き慣れた少女の声に一気に目が覚め、潜り込んでいた布団から顔だけを出すと、そこには思った通り、銀時のよく知る幼なじみの姿があった。

「……神楽、毎日毎日起こしに来なくていいっていつも言ってんだろ…」

まだ慣れない部屋の明るさに僅かに目を細めながら、銀時は低く掠れた声で自分を見下ろす少女にそう言うと、もう一度布団を頭から被り直した。

「何言ってるアルか。銀ちゃん、朝は中々起きられないから私がこうやって迎えに来てやってるネ。でなきゃ学校に遅刻するアルよ。とにかくさっさと支度するヨロシ。」

そう言って容赦なくバサッと布団を引き剥がす神楽に観念し、銀時はノロノロとベッドから起き上がった。

「…あーもう、わかったって…」

「じゃあ、下で待ってるから早くするアル。」

トントンとリズミカルに階段を降りていく神楽の足音を聞きながら、銀時はボリボリと頭を掻いて深いため息をつくと、学校に行く支度に取りかかった。



学校への通い慣れた道を2人並んで歩く。

もう小学生の頃からずっとこうして一緒に歩いているので、銀時は神楽の歩調に合わせて歩くのにもすっかり慣れてしまった。

欠伸を噛み殺しながら、隣を歩く幼なじみに視線を向けると、小さな朱色の頭がピョコピョコと視界に入ってきた。

小学生くらいまでは同じ背丈だったが、中学に上がってから銀時の背が急に伸び始め、高校生になった今では神楽の頭を軽く見下ろす程だ。

小さな子供みたいに楽しそうにスキップしている神楽を横目で見ながら、銀時は小さくため息をついた。

(……これで俺より2コも上だってんだからありえねェよな…)

「銀ちゃん、ため息なんかついてどうしたネ?」

ハッと気づくと、神楽が斜め下から自分を覗きこんでいた。

瓶底メガネの隙間から覗く透き通った青い目にジッと見つめられ、銀時は慌ててフイッと目を逸らす。

「…何でもねェよ。それよりちゃんと前見て歩け。あぶねェだろうが。」

「大丈夫アル…って、わわっ!」

「あぶねっ…!」

言ってるそばからコケそうになった神楽の腕を掴み、グッと自分の方に引き寄せる。

「…ったく、気ィつけろ。」

ぶっきらぼうにそう言うと、銀時はそのまま神楽の手を引いて再び歩き出した。



銀時と神楽は家が隣で、親同士がすごく仲が良かったので家族ぐるみの付き合いをしていた。

年は違ったが、近くに同年代の子供もいなかった為、いつも2人一緒に遊んでいた。

思えば、小さい頃からずっとこうして神楽の小さな手を引いてやってた気がする。

「銀ちゃん、銀ちゃん」といつも銀時の後ろをついてきてた神楽は、目を離すとすぐにフラフラとどこかに行ってしまって、危なっかしくてほっとけない存在だった。

だから、どっちかと言うといつも銀時が年上の神楽の面倒を見ていて、まるで兄と妹みたいだと周りの大人からはよく言われていた。

銀時自身も幼心に、もし妹がいればこんな感じなのかなんて少し嬉しく思ったりもしたが。

「アリガト、銀ちゃん。」

少しはにかんだ笑顔を向けながら、小さな手で自分の手をキュッと握りかえしてくる神楽に、銀時は一気に顔が火照っていくのを感じた。

「おう…」

いつの頃からか、神楽に対してただの幼なじみ以上の気持ちを抱くようになっていた。

(…あったけェな、コイツの手…)

昔も今も変わらない手のぬくもりに安心する一方で、もう昔みたいに純粋な気持ちだけでは神楽の手を引けなくなった自分に内心で苦笑しながら、銀時は繋いだ手に少しだけ力をこめた。
  
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