title

□原稿用紙10枚分のラブレター
2ページ/2ページ


「ハァー…明日までに10枚なんてどうしたらいいアルか…」

家に帰ってから、もうかれこれ1時間。

作文のテーマが全く思い浮かばず、私は未だに真っ白な原稿用紙とにらみ合いながら途方に暮れていた。

『せいぜい頑張って俺を唸らせるような作文書いてこいや。』

さっきの銀ちゃんの言葉がずっと頭から離れない。

ついでにあの意地悪そうに笑った顔も。

銀ちゃんのあの顔は、絶対私には無理だと思ってる顔だ。

あぁ、悔しい。

何とかして見返してやりたい。

そうこう頭を悩ませているうちに、ふとある一つの考えが私の頭に浮かび上がってきた。

あぁ、あったじゃないか。

原稿用紙10枚くらい書けそうで、しかも今の私にピッタリなテーマが。

『俺を唸らせるような作文書いてこいや。』

(……上等アル。)

思わず緩む口元。

「……よしっ!!やってやるネ!」

顔をペチペチと叩いて気持ちを引き締めると、私は意気揚々と真っ白な原稿用紙に鉛筆を走らせ始めた。





次の日、朝のHRが終わると、早速私は銀ちゃんに原稿用紙を手渡した。

「銀ちゃん、作文書いてきたアル。」

「マジでか。よく一晩で10枚も書けたな、お前。」

目を見開いて驚いてる様子からして、やっぱり銀ちゃんは私にはできないと思い込んでたんだろう。

「フフン、神楽様をナメんなヨ。とにかくこれで放課後の居残りは無しアルな。」

「そりゃ、俺の合格点が取れたらの話だろーがよ。…まぁ、ちょうど1限目は授業ねェから読んどくわ。」

「傑作アルヨ!もう合格点は間違いないネ!」

「ほぉ、そりゃ楽しみだ。」

口の端を上げながらコツンと私の頭を小突くと、銀ちゃんはヒラヒラと片手を振って教室を出ていった。

その後ろ姿を見届けてから、私はホッと静かに胸を撫で下ろした。





今頃、銀ちゃんは私の作文を読んでいるのだろうか。

さっきからそればかりが気になって授業どころじゃない。

小さく息を吐いて逸る気持ちを抑えると、頬杖をつきながら視線を窓の外へと移した。

傑作だとか合格点間違いなしだとか言ったが、正直そんな事はどうでもいい。

銀ちゃんがアレを読むことに意味があるのだから。

我ながら良い思い付きだったと思う。

さすがの奴も、あれなら絶対に気づくだろう。

原稿用紙10枚にめいっぱい詰めこんだのは、銀ちゃんへの想い。

生まれて初めてのラブレター。

銀ちゃんは今一体どんな顔してアレを読んでるのだろうか。

そう考えると何だか急に恥ずかしくなってきた。

でも実際、私は銀ちゃんの反応がすごく気になってはいたけど、何故か不安は全く感じていなかった。

想いを伝えることができたという達成感で、むしろ気分は窓の外と同じくらいに晴れやかだった。

(…さぁ、私はやれるだけのことをやったし、後は向こう次第ネ。)





「………。」

「…アレ、坂田先生?」

「…ハイ?」

「もしかして、熱あるんじゃないですか?」

「……え?」

「顔、真っ赤ですよ?」

「………っ!」

「…あの、坂田先生?」

「……あー…イヤ、大丈夫デス。」




end.
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ