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□原稿用紙10枚分のラブレター
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夕陽に赤く染まる放課後の教室。
向かいあう2人の男女。
もしこれが少女マンガとかだったなら、この先はさぞやロマンチックな展開が待っていたことだろう。
でも実際、私の目の前にいるのはロマンチックなんて言葉とは無縁の男。
これでよく教師になれたものだと思うほどのダメ教師。
だけどあいにく、私はそのダメ教師に恋をしていたのだ。
「…大体なぁ、いくら抜き打ちって言っても、ちゃんとまじめに俺の授業を聞いてたらこんな点数にはなんねぇの。」
そう言って銀ちゃんはため息混じりに私の答案を見下ろした。
「だって…」
「だってじゃねぇよ…ったく、お前は授業中何してたんだコノヤロー。」
(……お前のコト見てたんだヨ。)
なんて当の本人に言えるハズもなく…そこはグッと堪えて言葉を飲み込んだ。
一体、誰のせいで授業に手が付かないと思ってるのか。
…まぁ、元から授業なんてあまり真面目に受けてないけど。
だって仕方がないと思う。
気づいたら目が勝手に銀ちゃんを追いかけてしまうのだから。
授業の内容なんて全然頭に入ってこない。
それなのに、この鈍感男はそんな私の視線に気づきもしない。
面と向かってストレートに"好き"と言えればいいのだが、それができないから今こんなに悩んでいる訳で。
こういう時、素直になれない自分が本当に恨めしい。
あぁもう、どうやったらこの気持ちを銀ちゃんに気づかせる事ができるのだろうか。
そんな私の胸中など露知らず、目の前の男は堂々と教室でタバコに火を付けながら、私に数枚の用紙を手渡してきた。
「…何アルか、コレ。」
「何って、原稿用紙。」
タバコの煙を吐き出しながら銀ちゃんは気だるげに答える。
「んなコトは見たらわかるネ。そうじゃなくて…」
「明日までにコレに作文書いてこい。」
「作文…?」
「あぁ、テーマは別に何でもいいぞ。とにかくこの原稿用紙10枚分な。」
「ハァッ!?10枚!?」
その枚数の多さに、思わず立ち上がり抗議する。
「この作文で俺の合格点を取れれば、今回の抜き打ちの結果は目をつぶってやるよ。」
「ちょ、ちょっと待つネ!いきなり明日までに10枚書けなんて言われても無理アル!!」
「なら今週一杯は居残りで特別課題やってもらうことになるぞ、お前。」
「うっ……」
"居残り"と"特別課題"の2つの言葉に、途端に反論できなくなってしまう。
「まぁ、せいぜい頑張って俺を唸らせるような作文書いてこいや。」
そう言ってニヤッと意地悪げな笑みを顔に浮かべると、銀ちゃんはさっさと教室を出ていった。