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□愛してた、愛してる
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「バイバイ、銀ちゃん。」

遠ざかっていく小さな背中。

追いかけても、その距離は一向に縮まらない。

手を伸ばしても、その細い腕を掴めない。

声の限りに叫んでも、その耳には届かない。


「―――…っ!」


目が覚めるとそこは真っ暗闇だった。

弾む胸を押さえ、上半身をゆっくりと起こす。

周りを見渡すと、少しずつ暗闇に慣れてきた視界に、寝る前と何一つ変わらない光景が映る。

「…夢、か。」

シンと静まり返った部屋に自分の声が妙にでかく響いた。

のろのろと立ち上がり、向かう先は押し入れ。

答えなんて分かりきっているのに、それでも体はこうして無意識に動いてしまう。

「バカか、俺は…」

空っぽの押し入れを見つめて呟いた。

神楽はもう、ココにはいない。

自分の夢を叶える為に万事屋を、地球を出て行った。

分かってたんだ。

いつかはこんな時が来るって。

ちゃんと分かってた。

だけど、頭では分かってても気持ちが追いつかない。

なァ、神楽。

お前が居なくなってようやく気づいたんだ。


俺はお前を、愛してたんだって。


「神楽…」


名前を呼んでも、答えてくれる声はもうない。


『銀ちゃん』


ただ一人、俺をそう呼ぶお前はもういない。


こんな想いをするくらいなら、気づかなければ良かった。

こんなにも、苦しくて。

まだ、こんなにも。


「――…愛してる。」


呟いた言葉は、夜の冷たい空気に溶けて消えた。

 
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