clap

□マネージャーKの受難
1ページ/13ページ


「え、アンタが俺の新しいマネージャー?てっきり小学生がスタジオに迷い込んだのかと思ってた。」

全く悪びれもせず、男は初対面の私に向かっていきなりそんな失礼な言葉を投げかけてきた。

「ちょっ、銀さん!そんな事言っちゃ失礼でしょ!それに前にもちゃんと説明したけど、神楽ちゃんは僕の高校の時の同級生で…」

「あー、そうだっけ?んじゃま、どうぞヨロシク、神楽ちゃん。」

「……よろしくお願いします。」

それが彼、坂田銀時との出会いだった。




【 マネージャーKの受難 case1 】




第一印象は"最悪"、正にこの一言。

これからそんなヤツと付き合っていかなければならないと思うと目眩がしそうだった。

もちろん仕事中なので、そんな思いもグッと堪えて何とか表情を取り繕ったが。

そもそも何でこんな事になったのか。

たまたま運がなかった。

ここに至る経緯をまとめるとそんなところだ。

勤めていた会社が倒産し、次の働き口を探すも、特に何の資格も持っていなかった私を雇ってくれる所などなかったのだ。

とりあえずパートタイムのバイトをしつつ仕事を探していた時に出会ったのが、高校の時の同級生である新八だった。

相変わらず地味で冴えないメガネの新八は、その地味さ故に付き人――つまりマネージャーの仕事をしていた。

それを本人にそのまま言うと、相変わらずの鋭いツッコミが返ってきたのは言うまでもない。

『イヤ、地味なのは関係ないでしょうがァァァ!!』

だけど彼は困っている私の相談に乗ってくれて、その上ありがたい事にこうして仕事まで紹介してくれたのだ。

お人好しなところも全く変わっていないのが嬉しかった。

『イヤー、人手不足だったからこっちの方こそ助かるよ。』

紹介された芸能プロダクションは何というか変わった所だった。

社長は怪しいグラサンで、マスコットは白いペンギンのおばけ。

猫耳の団地妻っぽい女優や額に触角みたいなのを生やしたのがいるかと思えば、今人気のアイドル寺門通や、若い女性から中高年にまで人気の俳優 本城狂死郎まで見かけた。

他にも名前は知らないけどテレビで見たことのある顔もいた。

さすがは芸能プロダクションなんて感心していた私に与えられた初仕事は、なんと会社の看板で売れっ子俳優の坂田銀時のマネージャーだった。

何の経験もない私を、大事な俳優のマネージャーなんかにして大丈夫なのかと思わなくもなかったけれど。

でもせっかく新八に紹介してもらった仕事だったし、やる気に満ちていたその時の私は二つ返事で引き受けた。


――そして今に至る。

まさかいきなり出鼻を挫かれるなんて。

イヤイヤ、これしきの事でへこたれたらダメだ。

相手は自分よりも年下。
私は大人なんだから、少々のことは我慢しなければ。

そう決意した矢先に。

「じゃあさっそくだけど、コンビニでジャンプとイチゴ牛乳ソッコーで買ってきてくんね?」

「…は?」

「だからァ、ジャンプとイチゴ牛乳!この2つがないと俺仕事やる気出ないんだよねー。今度からは前もって準備しといてくれる?」

なんて、ケータイをいじりながらこちらに目も向けずに、それがさも当然かのように坂田は言った。

「ちょっと銀さん、もうすぐ撮影始まるんですよ!そんなヒマないです!」

「えー?いつもは楽屋に入ったらすぐに出してくれんじゃねーか。」

「だから、今日は業務の引き継ぎで時間がなかったんですよ…」

「ハァー…何か一気にやる気なくした…もう今日は撮影中止にしねェ?」

そう言って後ろ頭を掻きながら、大げさにため息をついてみせる。

その姿に私は確信した。

坂田は甘やかされた我が儘坊っちゃんだ、と。

「…わかりました。今すぐ買ってきます。休憩に入るまでには間に合わせるんで…」

「あ、そう?頼んだよ神楽ちゃん。次からはちゃんと用意しといてねー。」

「…ハイ。」

ヒラヒラと片手を振るだけでやっぱりこっちを見ようともしない坂田に、軽く殴りたい衝動に駆られたが。

「神楽ちゃん…」

心配そうな新八に目線だけで大丈夫だと返すと、私はコンビニへ向かうべく楽屋を後にした。


こうして私のマネージャーとしての前途多難な幕が開いたのだった。




To be continued . . .
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ