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□ジェラシー
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「一体どんだけ俺を妬かせるつもりだよ?」
ようやく仕事を終えて帰ってきたというのに、そんな疲れ切った私を迎えてくれたのは、労りの言葉なんかじゃなくて憮然とした表情の男の言葉だった。
「は?」
告げられた言葉の意味が分からなくて首を傾げてみせると、目の前の金髪はますます苛立ちをあらわにする。
何が気に食わないのか、金ちゃんは舌打ちを一つしたかと思うと、強引に体を引き寄せて抱きしめてきた。
甘えるように首筋に擦り寄ってくる鼻先や唇。
いつもの金ちゃんの仕草と代わりない。
それなのに舌打ちが止むことはないのは何故だろうか。
全く訳が分からない。
「…金ちゃん、さっきから何怒ってるアルか?」
「…………。」
言葉の代わりに抱きしめる腕の力が強められた。
「さっきのセリフも意味がよく分かんないネ。黙ってないでちゃんと話してヨ。」
不機嫌なのを隠そうともしないで、そのくせ理由を話さないなんて、それはちょっとズルいんじゃないか。
腕から抜け出すつもりはなかったけれど、些細な抵抗とばかりにほんの少しだけ身じろいでみせた。
縋るように背中に回されていた腕が一瞬ビクリと動く。
「金ちゃん?」
「……タバコ。」
「え?」
「…お前からタバコの匂いがする。」
「…私、タバコなんて吸わないアルヨ?」
「そうじゃなくて…!」
金ちゃんのそのもどかしげな声音に、何が言いたいのか何となく分かった。
「…お前は俺のなのに…」
「…ウン。」
「なのに、他の男の匂いつけて帰ってくるし…」
「仕事で一緒にいただけアル。」
「そんなこたァ頭ではちゃんと分かってんだ。でもよ…」
苦々しげに吐き出すそれらの言葉がどれだけ私を喜ばせるのか、金ちゃんは分かっているのだろうか。
「例え仕事でも…お前が俺以外の男と一緒にいたって考えると気ィ狂いそうになんだ。誰にも近づけさせたくなんかねェよ。」
切なげな声にドキリと心臓が跳ねる。
「わ、私だって…」
本当は。
仕事だと割りきっていても、いつも嫉妬していた。
金ちゃんからほんの僅かに漂ってくる、顔も名前も知らない女の移り香に。
「…妬いてくれてたの?」
「…ウン、だからおあいこアル。」
「…まあ、そうなんだけど…でもやっぱこのタバコの匂いは気に食わねェ。」
そう言って金ちゃんは少し思案したかと思うと、何かを思いついたようにポンと手を打った。
「…よし、神楽おいで。金さんがその匂い落としてやる。」
「えっ、ちょ、どこ行くアルか!?」
抱きかかえられて向かう先に、何となく予想はつくけれど。
「決まってんだろ、風呂だよ風呂。」
ニヤリと笑みを浮かべたその顔に、私は抵抗する術なんて一切思い浮かばなかった。
end.