memorial
□If...
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今日もいつものように仕事がなく、特にする事もなかったので、当てもなく町をブラブラと散歩していた。
万事屋には新八もいたものの、やっぱり銀ちゃんの近くにいると胸が苦しくなって。
だから、昼食を食べてすぐに遊びに行くと言って出てきた。
「…アラ、神楽ちゃん?」
不意に後ろから誰かに呼び止められる。
よく知る声、だけど今は聞きたくなかった。
「アネゴ…」
「ちょうど良かったわ。今から万事屋に行くところだったの。おいしいお菓子を貰ったからみんなでと思って。」
風呂敷に包まれた菓子折りを見せながら、アネゴはニコリと微笑んだ。
(綺麗アル…)
自分とは違う大人の女性。
銀ちゃんが選んだ人。
「…神楽ちゃん?どうかした?」
首を傾げるアネゴに何でもないと笑ってみせたけど、上手く笑えていたかどうか分からない。
一緒に万事屋に行こうというアネゴの誘いは、用事があるからと嘘を吐いて断った。
アネゴは残念そうにしていたけど、2人が目の前で仲良くしているところなんてきっと私は耐えられないだろうから。
アネゴと別れた後、何となく足が向いて着いたのはいつもの公園だった。
日の当たらないベンチを見つけてゴロンと仰向けに寝転がる。
きつく目を閉じて考えるのは銀ちゃんとアネゴの事。
2人の事を考えたくないと思うのに、どうしても考えてしまう。
一体いつまでこんな事を続けなきゃいけないんだろう。
このままいつまでも2人を避け続けることなんてできない。
かと言って、2人の前で何もなかったかのように振る舞うなんて簡単にはできなくて。
思考は堂々巡りするばかり。
その内、私はそのまま眠ってしまった。
目が覚めたのは、太陽が沈み始めて辺りがオレンジ一色に染まっている頃。
結構長い時間寝ていた為か、体が少し冷えていた。
ブルリと一度身震いをして、そろそろ帰らなきゃと視線を向けたその先、公園の入口に銀ちゃんが立っていた。
「銀ちゃん…」
驚いてその場に固まっている私の方へと、銀ちゃんは一歩一歩ゆっくりと近づいてくる。
何を話せばいいのか分からなくて思わず逃げ出したくなったけど、銀ちゃんは私の目の前まで来ると、ただ一言「帰るぞ。」と発しただけだった。
それにホッとして、私は慌ててベンチから立ち上がった。
「ウ、ウン…!」
帰り道、銀ちゃんの少し後ろを歩きながら、私はただその広い背中をボンヤリと眺めていた。
銀ちゃんも私も何も話さない。
公園から万事屋までのいつもの道のりがとても長く感じた。
万事屋に着くと、アネゴと一緒に帰ったのか、新八はもういなかった。
「…今日、お前ずっと公園にいたのか?」
ソファーに腰を降ろしながら、不意に銀ちゃんが口を開いた。
「え?」
「お妙が…万事屋に来る途中でお前に会ったって言ってたから…」
銀ちゃんの口からアネゴの名前が出ただけで、胸がギュッと締め付けられたように苦しくなる。
「…用事って何?」
「別に…銀ちゃんには関係ないアル。」
冷たい言い方になってしまったけど、今の私にはそこまで構っていられなかった。
銀ちゃんの顔が見れなくて。
俯いてそのまま押し入れに行こうとしたけど、それは銀ちゃんの大きな手に阻まれてしまった。