memorial

□斯くして、僕は彼女にハートを占領されました
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「神楽っ!?」

「………。」

しゃがみ込んで何も応えない神楽に焦り、俺は肩を掴んで顔を覗き込んだ。

「オイ、大丈…」

言葉の続きは、神楽の顔を見た途端出てこなくなってしまった。

目が合うなり分かりやすいくらいに顔を真っ赤にして、うっとりとした表情で俺を見つめる。

その様子に思わず誰?と口に出してしまいそうになった。

「ぎん、ちゃん…?」

名前を呼ばれてハッとすると、神楽が勢いよく抱きついてきて。

突然のことに受け止めきれず、そのまま後ろに倒れてしまう。

「痛っ…!」

頭を床に強くぶつけながらも何とか視線だけを神楽に向けると、思った以上にお互いの顔が近くにあって。

「……っ」

慌てて離れようとして、思わずもう一度頭をぶつけてしまった。

「大丈夫アルか?」

痛みに呻く俺の頭を、神楽は優しい手付きで何度も撫でる。

普段からは考えられない神楽の様子に、思い当たるのは一つしかなかった。

「…アンタら何してんですか?」

不意に聞こえてきた冷やかな声に顔をあげると、新八がいつのまにか俺達を引きつった顔で見下ろしていた。

「…よ、よォ新八。来てたのか…」

今さらになって気づいた自分達の状況に、自然と冷や汗が流れた。

「…っこんのロリコン天パがァァ!!」

「ギャアァァァ!!」



「…そういう事だったんですか。それならそうと早く言ってくださいよ、銀さん。」

「説明する前にお前が早とちりして殴ってきたんだろーが、ったく…」

あれからすぐ新八にこれまでの経緯を話して何とか納得してもらえたものの、状況は一向に変わらず今に至る。

相変わらず神楽は俺にベッタリで。

いつもと違う雰囲気に何だか落ち着かない。

それにさっきから時折甘い匂いがフワリと鼻を掠める。

香水でもない。

甘味でもない。

蕩けそうなくらい優しくて甘い――

「とにかく神楽ちゃんがこうなったのは、銀さんの言う通りそのピンクの液体が原因でしょうね。」

その心地よさに浸っていると、不意に新八の声によって意識を引き戻された。

「あ…ああ、それ以外考えらんねェ。」

チラリと横を盗み見てみると、神楽が嬉しそうに俺の腕に自分の腕を絡めていた。

「ねェ、神楽ちゃん。そのビンはどこで手に入れたの?」

「………。」

「神楽ちゃんってば…」

「………。」

「…え、ちょっ、無視?」

「神楽、ソレどっから手に入れた?」

「貰ったアル。」

「何で僕は無視で、銀さんだと即答ォォ!?」

うるさいメガネは放っといて神楽を問いただす。

「貰ったって誰に?」

「モジャモジャアル。」

「…は?何だって?」

「銀ちゃんの知り合いの毛玉アルヨ。」

「毛玉って…銀さん、もしかして坂本さんのことじゃないですか?」

俺は新八の言葉に頷いた。

俺の知り合いの毛玉と言えば一人しかいない。

「…お前、アイツに会ったのか?」

「ウン、定春の散歩してた時に。それで今度会社で取り扱う製品の試供品だってあのジュースくれたネ。」

質問に答えながら、だけどもそんな事はどうでもいいと言わんばかりに、神楽は俺の腕を抱きしめて頬を擦り寄せる。

その瞬間、全身がカッと熱くなった気がした。 
   
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