memorial
□曖昧ディスタンス
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万事屋を出た私達は、もう一度詳しく依頼の内容を聞く為に、とりあえず近くの公園へ向かった。
「…良かったんですか?」
「え?」
ベンチに腰を下ろしながら男が尋ねてきた。
「…イヤ、ボクは依頼を受けてもらって助かるんですけど…」
「…別にあんな天パなんか放っとけばいいアル。いつまでも私のこと子供扱いして…」
売り言葉に買い言葉だった。
依頼内容を聞いた時、銀ちゃんはどんな反応をするのか密かに期待していた。
少しくらい焦ってくれるかもしれない、と。
だけど実際は。
「…オマエも本当は、私なんかが恋人役で大丈夫かって思ってるんダロ?」
「そんなまさか!あなたみたいな綺麗な人が恋人なら、胸を張って両親に紹介できますよ!」
そう言って男は頭を掻きながら照れたように笑った。
「…アリガトナ。ちゃんとできるどうかわからないけど、オマエの恋人役頑張るアル。」
今回の依頼を見事こなしてみせれば、銀ちゃんを見返してやれるかもしれない。
そう意気込んで答える私に、男は一瞬視線を彷徨わせた。
「…?どうしたアルか?」
「…あの、も、もし良かったら恋人役じゃなくて…その、ボクの本当の恋人になってくれませんか?」
「!?」
突然のことに訳がわからずにいると、男は真っ赤な顔をして私に向き直った。
「…実はあなたのことを万事屋で一目見た時から…」
「…ええっ!?だって…」
思ってもみなかった状況に戸惑っていると、男はこちらに身を乗り出すようにしてさらに続ける。
「確かに今回万事屋さんに依頼に行ったのは、両親に縁談を諦めてもらう為でした。でも!ボクはあなたなら…」
「ハイ、ストーップ!そこまでェ。」
「「!?」」
不意に聞こえてきた声の方へ視線を向けると、いつの間にそこにいたのか銀ちゃんが公園の入口に立っていた。
「銀ちゃん!?」
驚く私を一瞥すると、銀ちゃんはまっすぐに男の前までやって来た。
「悪いんだけど、この依頼はなかったことにしてくれる?」
「…は?」
「な、何言ってるネ、銀ちゃん!これは私への依頼だって…」
「お前は黙ってろ、神楽。」
「……っ」
その有無を言わせない響きに、私は思わず反論できなくなってしまった。
「…どういう事ですか、万事屋さん。」
「どうもこうも、やっぱりコイツに恋人役をさせる訳にはいかねェんでな。」
眉を顰める男に、銀ちゃんは首の後ろを掻きながら答えた。
「…万事屋さん、彼女に恋人役が務まらないというのはあなた個人の意見でしょう?」
「………。」
「仕事の事を心配してるんでしょうけど、ボクは彼女が相手で何の不満もありません。彼女はとても素敵な女性ですよ。」
「――…ってんだよ。」
「え?」
「んな事アンタに言われなくてもわかってんだよ。」
いつもより少し低い声音で発せられた言葉は、だけどもハッキリと私の耳に届いた。
「…銀ちゃん、今のどーゆう…」
すぐにその言葉の意味を聞こうとしたけど、それは叶わなかった。
気がつけば銀ちゃんに手を引かれていて。
「とにかくそういう事だから、恋人役は他を当たってくれ。」
そのまま困惑気味の男を置いて、私達は公園を後にした。