memorial
□曖昧ディスタンス
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一体、いつになったら私は銀ちゃんの目に"女"として映るのだろう。
初めて出会った時から、ずっとその背中を追いかけ続けてた。
銀ちゃんに相応しい"女"になりたくて。
だけど、いつだってその背中は遠くて。
一向に縮まることのない距離がもどかしくて堪らなかった。
私達が出会ってもう何年経っただろう。
ガキだガキだと言われていた私もそれなりに身長も伸びたし、スタイルだってボンキュッボンとまではいかなくても良い方だと思う。
髪だっておだんご頭じゃなくて、今は長く伸ばしている。
自分ではだいぶ変わったなと思う。
だけど、銀ちゃんはいつまで経っても変わらず私を子供扱いする。
銀ちゃんはと言うと、悔しいことに前よりさらに格好良くなったと思う。
死んだ魚のような目やクルクル天パは相変わらず健在だし、どうしようもないマダオなんだけど。
でも、ふとした時の表情や言葉に、やっぱり大人の男なんだとドキリとさせられる。
そしてそんな銀ちゃんと比べると、自分はまだまだ子供なんだって思い知らされてしまう。
ほら、今だって。
「オイ、髪の毛濡れたままにしてっと風邪引くぞ。乾かしてやっからタオルかせ。」
無造作にガシガシとタオルで髪を拭く手付きはあの頃と全く変わらない。
「…もうちょっと優しくできないアルか。乙女の艶やかな髪が傷んだらどうしてくれるネ。」
「あ?どこに乙女がいるってんだよ?」
「目の前にいるダロ、可憐な乙女が。」
「アレェ?おかしいな、俺の目の前には酢昆布臭いガキしかいねェ…グハァッ!?」
「…っもういいアル!銀ちゃんのバカッ!!」
結局、いつもこんな事の繰り返しで。
どれだけ背伸びをしてみたって、やっぱり銀ちゃんには届かない。
それが悔しくて悲しかった。
ある日、万事屋に一人の若い男が仕事の依頼にやって来た。
依頼の内容は、私に一日だけ恋人のフリをしてほしいというものだった。
どうやら親に強引に進められている縁談を断る為らしい。
「神楽ちゃん、どうする?恋人のフリなんて口で言ったら簡単そうだけど…結構大変だと思うよ?」
「ムリムリ。どうするも何もお前、コイツに恋人のフリなんてできる訳ねェじゃん。」
心配そうに眉を下げる新八の横で、銀ちゃんはヒラヒラと片手を振る。
「…何でそう決めつけるアルか。やってみなきゃわかんないダロ。」
「わかるの。オメェにはまだ無理だから止めとけって。」
そうきっぱりと言い切る銀ちゃんに無性に腹が立った。
銀ちゃんにとって、一体私はどれだけ子供だというのだろう。
一体いつになれば。
「…っわかったアル!そんなに言うなら私ができるってことを証明してやるネ!」
私はソファーから勢いよく立ち上がると、依頼人の男の腕を取って玄関へと向かった。
「オイッ、神楽…」
「これは私に来た依頼ネ。銀ちゃんは口出ししないでほしいアル!」
これ以上何も聞きたくなくて、私に何か言おうとしていた銀ちゃんの言葉を遮るように玄関の戸をピシャリと閉めた。