memorial
□first step
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どうやら俺は目がおかしくなっちまったらしい。
だってどう考えてもあり得ない。
チラリと隣に目を向けると、俺の視線に気づいた少女が首を傾げながら見上げてきた。
そう、まだ少女なのだ。
俺からしたらコイツはまだまだガキで。
そんなガキを"可愛い"と思ってしまうなんて。
イヤ、確かに可愛いのは可愛い。
だが、それは妹みたいに可愛いという意味で、決して異性を意識してのものじゃなかった。
なかったハズ、なのに。
「…銀ちゃん?ボーッとしてどうしたアルか?」
大きな青い目が不思議そうにジッと見つめてくる。
それだけで動悸がして胸が苦しくなる。
「…別に何でもねェよ。それより出来たのか?」
平静を装いながら、俺は神楽の手元を覗き込んだ。
机の上には、中学の教科書に問題集が数冊。
開かれたページはさっきと何ら変わらず白いまま。
「…オイ、全然進んでねェじゃねェか。」
「だってこんなん出来るワケないネ。っていうか、私には英語なんて必要ないアル。日本人は日本語を話せれば十分ヨ。」
「イヤ、お前日本人じゃねェだろ。」
すかさずツッコミを入れると、神楽は拗ねたように唇を尖らせた。
そんな表情ですら可愛いと思ってしまうなんて、もう相当重症なのかもしれない。
半年前、ババアから頼まれて、知り合いの娘の家庭教師を引き受けた。
それが神楽との出会いだった。
『えー…今日から君の家庭教師をすることになった坂田銀時です。どうぞよろしく…』
『銀ちゃんっておじいさんアルか?髪の毛が真っ白ネ。』
『…人の話聞いてる?ってか、おじいさんってヒドくね?俺、まだピチピチのハタチなんだけど。それにこれは白髪じゃなくて銀髪なの。』
『…ふーん。だから"銀ちゃん"っていうアルナ。』
『…つーか、その"銀ちゃん"って…』
『イヤだったアルか?』
『…別にイヤとかじゃねェけど。』
『じゃあ、やっぱり"銀ちゃん"で決まりアル。よろしくナ、銀ちゃん!』
『あー…こちらこそ。』
顔に似合わず毒舌で大食いな少女に、最初はかなり驚かされた。
年齢の割には嗜好が地味で、好物は酢昆布。
あんな酸っぱいモンのどこがいいんだか。
オマケに怪力ときたもんだ。
とにかくそこら辺の女子とは全く違っていて、だからこそ俺は一人の人間として興味をひかれた。
神楽も俺によく懐き、たまの休みにパフェを食いに連れていったりもした。
端から見れば、仲良し兄妹。
俺も神楽を妹のように可愛いがっていた。
それなのに。