memorial

□アイツは私の執事様?
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「さあ、どうしますか お嬢様?」


そう言って目の前の男は不適な笑みを浮かべた。

壁に押さえつけられた両腕。

鼻と鼻の先がぶつかりそうなくらいの至近距離。

私は今さらながらに自分の置かれている状況に目眩を覚えた。

(ああ、やっぱり私の勘は当たってたネ…)





「今日からこちらのお屋敷で働かせて頂きます、執事の坂田と申します。」

「…よろしく。」

そんな会話を交わしたのがちょうど昨日の今頃。

新しく入った執事として紹介されたのが、この坂田銀時という男だった。

とても執事には見えない。

私の第一印象はまさにそれだった。

人目を引く銀色のフワフワの天パに、死んだ魚のような目。

その表情からは、一体何を考えているのか全く読めない。

この少し風変わりな執事に、私はただ単純に興味を持った。

だけど、そんなちょっとした好奇心がのちに大きな後悔に変わるなんて、この時の私は思ってもいなかったのだった。 


「お嬢様、本日のご予定ですが…」

いつものように朝食を済ませて部屋で寛いでいると、新八が食後のお茶を運んできてくれた。

「午後から近藤家のお三方がお見えになります。」

「ゲッ、あのゴリとマヨとサドの3人アルか…!?」

新八の言葉に、私はあからさまに顔を顰めてみせた。

つい先日、私は近藤家の三男・総悟との婚約が決まったばかりだった。

近藤家とは昔から親交があり、特に現当主で長男のゴリとパピーは結構気が合うらしい。

2人が顔を合わせれば、結局最後にはいつも酒盛りになってしまうのだ。

その酒の席で冗談半分に出たのが今回の縁談。

最初はそれこそ冗談じゃないと思った。

酔って意識もしっかりしてるか定かではないような状態で、大事な一人娘の結婚相手を決めるなんて。

その話を聞いた時は、よっぽど残り少ない毛を全部引っこ抜いてやろうかと思った。

だけど、いずれはどこかに嫁がなければいけないのなら、小さい頃からよく見知っている相手の方が良いのではないか。

たとえ今は恋愛感情がなくても、結婚して一緒にいる内に相手への情も湧いてくる。

そう説得されて渋々承知したのだった。

何より私自身も、政略結婚なんかで全く見知らぬ男のところに嫁ぐのは真っ平ごめんだったから。

「そんな言い方は失礼ですよ。仮にも未来の夫と義理の兄となる方達なんですから。それとお嬢様、旦那様からそのお言葉づかいは直すようにと注意されたでしょう?」

「いいダロ、別に。今は私達だけなんだから。それともお嬢様の言うことは聞けないってのカ?」

そう言ってわざと大げさに腕を組んでみせると、新八は「しょうがないですね。」と困ったように眉を下げて笑った。

「…ところで新八、昨日入ったあの執事はどうアルか?」

「坂田さんのことですか?どうって…」

「昨日私が見た限りではとても執事には見えなかったネ。本当にアイツ、執事なのカ?」

そう尋ねると、新八は一瞬目を丸くしてからクスクスと笑って答えた。

「もちろんですよ。まぁ、あの見た目ではそう思ってしまわれるのも分からなくもないですが。だけど彼をこのお屋敷に連れてこられたのは旦那様ですよ?」

「パピーが?」

「ええ。ですから心配しなくても大丈夫ですよ。」

「ふーん…」

そう小さく相づちを打ちながらも、どこかスッキリしない自分がいた。

パピーが連れてきたという事は、あの坂田という男は歴とした執事なのだろう。

だけど。

これは私の単なる勘に過ぎないのだけれど。

あの男はただの執事じゃない。

そんな気がした。
 
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