memorial
□a rainy day
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「まだ帰ってなかったんですかィ?」
振り向くとそこに居たのは同じクラスの沖田だった。
「げっ、サド!」
「ああ、ちょうど良かったでさァ。チャイナ、お前の傘に入れてくれィ。」
沖田はそう言いながら、銀時の方は見もせずに前を素通りすると、神楽の方へと一直線に向かう。
「ハアッ!?何で私がお前なんかと一緒に帰らなきゃなんないネ!?」
「減るもんじゃねェんだし別にいいじゃねェか。俺が風邪引いてもいいってのかィ?」
「大丈夫アル。お前はバカだから風邪なんか引かないネ。」
「ハッ、その言葉そっくりそのまま返しまさァ。」
「なんだとコルァ…って、ウワッ!?」
沖田に掴み掛かろうとした瞬間、不意に神楽の腕がグイと引かれる。
気づいた時には、神楽の小さな体は銀時の腕の中にすっぽりと収まっていた。
「銀ちゃん…!?」
「あー、総一郎君だっけ?悪いけどコイツは俺と帰るから。」
銀時はそれだけ言って傘を掴むと、呆気にとられている神楽の手を引き、そのまま昇降口から出ていった。
一人その場に残された沖田は、2人の後ろ姿を目で追いながら、雨音に掻き消されそうなほど小さな声で呟いた。
「…あーあ、もう少しだったのに…」
帰り道。
「………。」
「……銀ちゃん」
「………。」
「ねェ、銀ちゃんってば」
「……何だよ。」
「もうちょっとゆっくり歩いてヨ。」
無意識にかなりの早足で歩いてた事に気づき、銀時は慌てて歩調を緩める。
「…悪ィ。」
(ダッセェ…)
内心そう自嘲しながら斜め下を見ると、瓶底メガネの隙間から覗く青い目と視線がぶつかった。
『コイツは俺と帰るから。』
さっきは勢いで沖田にああ言ったものの、それまでの自分の態度から考えると明らかに不自然なもので、銀時は今さらになって後悔した。
素直じゃない自分は、一緒にいると彼女を怒らせてばかりで。
だけど、彼女が自分以外の誰かと話しているのを見るだけで胸の中でグルグルと黒い感情が渦巻いていく。
我が儘で自分勝手。
まるで小さな子供だ。
そうわかっているのに自分はやっぱり神楽から離れることなどできないのだと、銀時は十分に理解していた。
「神楽、その…さっきは悪かっ…」
「銀ちゃん」
「!」
「途中でコンビニ寄るネ。」
「……は?」
「酢昆布10個、忘れたとは言わせないアルヨ?」
「!」
神楽はニヤッと悪戯っぽい笑みを浮かべながら、銀時の手をギュッと握りしめた。
途端に顔や手の温度が上がっていく。
(…あーもう、だからコイツには敵わねェんだよ…)
思わず口元が緩んでしまう。
「…ったく、またさりげなく数が増えてんじゃねェか。」
文句を言いながらも、銀時は神楽の体をそっと引き寄せると、そのままその小さな手を強く握り返した。
どしゃ降りだった雨は、いつの間にか和らぎ始めていた。
この日、少しだけ近づいた2人の距離は。
静かに降り続く雨だけが知っている。
end.